アラブ・イスラム諸国を代表する大国、エジプトの大統領にムスリム同胞団のムハンマド・モルシー氏が当選したことは、同じイスラム国であるイランにとって、よほどうれしかったのであろう。
そのことがイランをして2度も、フライングをさせてしまった。最初は当選発表前の段階で、ムハンマド・モルシー氏がイランのプレス・テレビとインタビューをした、という報道がイラン側から流されたことだった。
続いてイランがしでかしたフライングは、ムハンマド・モルシー大統領がイランを、訪問するというものだった。この報道を見る限り、ムハンマド・モルシー大統領は、イラン訪問を目的にしているようにとれるだろう。
しかし、事実はそうではなくて、イランの首都テヘラン市で開催される、非同盟諸国首脳会議に出席するというものなのだ。それすらも、実は確認が取れる前の段階で、報道されてしまったために、危ぶまれる状況になっている。
イラン側はレバノンのアッサフィール紙の報道を、転載したとしているが、これも意図的なものであろう。
イランにしてみれば、イスラム原理主義のムスリム同胞団が、アラブの大国エジプトの大統領選挙に、勝利したということは、同じイスラム原理主義の立場をとるために、相当うれしかったのであろう。
イランはエジプトのムスリム同胞団の選挙における勝利を、イスラムの勝利として、イランの革命に続くものだ、という位置づけにしたいのであろう。そして、それはあたかも、イランの革命によって、アラブ諸国のイスラム勢力とイスラム精神の覚醒が、起こっていると言いたいのであろう。
そのことを裏付けるのは、イランのハメネイ師の顧問であるアリー・アクバル・ベラヤテイ師の発言だ。彼はエジプトの大統領選挙で、ムハンマド・モルシー氏が当選したことは『イスラム世界における大勝利だ。』と称賛し、『イランとエジプトとの関係は飛躍的に強化されていく。』と語っている。
しかし、このイランの2度に渡るフライングは、イランとエジプトとの関係促進にとって、逆効果を生み出すであろう。イランは自国をイスラム世界の、指導国と意識しているかもしれないが、エジプトはイラン以上に、スンニー派イスラム世界の指導国だ、と自他共に認めている国なのだ。
こんな先走りをやると、非同盟諸国首脳会議というムハンマド・モルシー大統領の国際舞台のデビューを、邪魔することになってしまうだろう。彼はイランの色のつかない状態で、国際社会にデビューしたいのであって、間違っても、イランに政治利用されたいとは思っていまい。