6月29日久しぶりに、トルコ国営テレビの特配員が連絡してきた。シリアとの緊張問題で、インタビューをしたいというのだ。もちろん受けることにした。
トルコ国営テレビはインタビューのなかで、ロシア、イラン、NATOのシリア問題への対応について聞いてきた。ロシアは最近シリアについて、アサド体制を絶対に守るというスタンスから、距離を置き始めている。曰く『シリア国民が望むのであればその限りではない』
イランも同様であろう、シリア政府はイランについて『イランは賢明な友人であり続けてほしい。』といった内容の記事を発出している。それはイランの立場に変化が出てきたために、何とか友好国として繋ぎ止めておきたい、という焦りからであろう。
ロシアやイランが、シリアのアサド体制に距離を置き始めたのは、シリアの内紛の死傷者の数が、激増したからであろう。たとえどれだけの理由があろうとも、1万人を超える多数の死傷者が出てしまったのでは、味方することは難しくなっていこう。これ以上アサド体制支持の立場をとり続ければ、世界からロシアやイランは血塗られた独裁体制支持だ、と非難されることになろう。
NATOについては、リビアとシリアに対する対応の違いを述べ、良識的な日本人は誰もが、欧米の対応はダブル・スタンダードだ、と考えていると答えた。リビアには石油ガスがあることから、戦争をしても元を取りやすいが、シリアの場合はエネルギー資源も、他の資源もないことから、戦争費用を取り返すことが、困難だということだ。
付けくわえて、本来であればフランスが、もっと積極的にシリア問題解決に、動くべきだとも語った。フランスはかつて、シリアを支配していた国であり、応分の道義的責任があるからだ。そうしたなかで、欧米の思惑通りにトルコが戦争に入れば、馬鹿を見るのはトルコだけだ、とも間接的に述べた。
このインタビューのなかで語りたかったが、語れないで終わったことがある。それは撃墜された戦闘機のパイロットであるギョカン・エルダンさんの、父親アリー・エルダンさんの発言を、褒める言葉だった。トルコでは広く知られているので、必要がないのかもしれないが、日本の皆さんにはこの場でお知らせしたい。
ギョカン・エルダンさんの父親アリー・エルダンさんは、戦闘機撃墜事件ののち、トルコ国内で高まっていく、報復戦争の可能性を前に『私の息子の死のために、戦争をするのは止めてください。』と言ったのだ。個人的な恨みよりも、公の利益を優先するこの父親の姿勢に、記事を読んでいて涙がこぼれた。
最近トルコ政府の対応は、日に日に厳しさを増してきている。トルコ・シリア国境には、どんどん兵器と兵員が増強されている。何とかトルコ政府の中枢の人たちは、知恵を絞り戦争によらないシリアへの対応を、考え出してほしい。そうでなければ、アリー・エルダンさんの折角の気持が、生かされないではないか。