エジプトで60年以上にも渡って、非合法組織と見なされ、弾圧の対象になってきたれムスリム同胞団が、アラブの春革命後与党第一党になり、大統領選挙では、同組織が結成した自由公正党の候補者が、大統領に就任した。
これは当然のこととして、エジプト国内で大反響を呼んでいるわけだが、そればかりではないようだ。アラブ各国のイスラム原理主義組織が、俄然元気良くなってきている。チュニジアのナハダ党は、ムスリム同胞団に似通った組織だが、与党となり国家元首をはいで輩出している。
シリアでいま、アサド体制に反対する広範に広がる組織は、シリア自由軍が目立つ関係から、あまり表面には出ていないが、ムスリム同胞団なのだ。彼らの組織力が、今後のシリアの行方を、決定付けていくものと思われる。
ヨルダンでも何度かお伝えした通り、ムスリム同胞団組織が反体制(国王批判は)の中核となっている。しかも、ムスリム同胞団の場合は、述べるまでもなく宗教組織であるために、ヨルダン在住のパレスチナ人だけではなく、ヨルダン人も含んでいる。そのため、アブドッラー国王にとっては、極めて手ごわい相手であろう。
最近になって、もう一つ気掛かりになってきているのは、モロッコのイスラム原理主義組織の動きだ。この場合も、宗教的情熱があらゆる困難を押しのけて、体制に対する強い批判勢力となってきているのだ。
通常は臆病で計算高いアラブ人でも、一定のラインを超えると、感情が爆発し、制止できない状態になってしまうのだ。その時、彼らの心のほとんどを埋めるのは『アッラーフ・アクバル=アッラーは偉大なり』というフレーズなのだ。
アラブの革命のなかで、そして今、シリアの革命闘争のなかで、このアッラーフ・アクバルは何度も叫ばれている。シリアの現場の映像を見ていると、何度となくそのフレーズが、叫ばれていることに気が付こう
この宗教を前面に立てた、アラブ大衆の爆発の熱は、どうやら当分冷めそうにない。これから色々な政治主導者たちによる、鎮静化の努力、社会の安定化の努力が、試みられるであろうが、大衆の熱病は当分収まらないだろう。
一旦は鎮静化したとしても、またその炎が拡大するということの、繰り返しになるのではないか。
イラク大使はこの前の講演会のなかで何度も『アラブ人の文化を理解しなければならない』と語っていたが、アラブ人の感情も、文化のうちの一部であろう。彼らが何に怒りを感じ、何に満足を感じるのかを知る必要があろう。