エジプトの大統領選投票の結果は、未だに公表されていない。その理由は、選挙をめぐって各種のクレームが発生しているため、選挙管理委員会はそれを一応調べてから、結果を正式に発表すると説明している。
当初、木曜日(6月21日)に発表される予定だったのが、金曜日にもということになり、最近では日曜日には発表される、と言われている。しかし、この日曜説も、いまのところ不明だ。それは結果発表が持つ意味合いが、大きいからにほかならない。
ムスリム同胞団は決選投票が済んだ次の日の段階で、52パーセントを獲得しムハンマド・モルシー候補の当選宣言を出した。それに遅れてアハマド・シャフィーク候補も、51パーセントを獲得したとして、当選宣言を出している。
しかし、ここで問題になるのは、ムスリム同胞団が選挙に先駆けて、アハマド・シャフィーク候補について、旧体制の残党だと非難していた点だ。そのことに加え、ムスリム同胞団がムハンマド・モルシー氏の当選宣言をしたのだから、エジプトの大衆はムハンマド・モルシー氏の当選を疑わないだろう。
しかも、ムスリム同胞団は手回し良く、外国の報道機関に対しても、各県別の得票数を並べた一覧表を配布し、ムハンマド・モルシー氏の当選を強く印象付けている。ムスリム同胞団の作戦勝ち、ということではないのか。
アハマド・シャフィーク氏を後ろで応援していたのは、官僚組織であり、軍部だったと思われる。軍は軍の権益を何としても、守りたいと思っている。もしムハンマド・モルシー氏の当選が決まれば、大統領に就任した彼には、国防大臣を任命することもでき、現職のタンターウイ国防大臣が、失脚する可能性がある。
さてそうした切迫した情勢下にあって、軍部はどのような対応をするのであろうか。あまり妙案はなさそうだ。もちろんアハマド・シャフィーク氏の当選を発表すればいいのだろうが、そうなるとムスリム同胞団は大衆を煽って、全国的な抗議デモを展開することになり、流血事態も起こりえよう。
一部では、軍がカイロからアレキサンドリアに通じる農業道路(高速道との別名)に、装甲車などを展開し始めていると言われている。それは、ムスリム同胞団が大デモを呼びかけたときに、アレキサンドリアから集まってくる人たちが、カイロに到達するのを阻止するためであろう
アハマド・シャフィーク氏の当選発表は国内を混乱させ、ムスリム同胞団のムハンマド・モルシー氏の当選が発表されれば、財界は無言の抵抗を示し、経済は急速に悪化する懸念がある。いずれにしても難しい選択ということになるが、その場合は軍が戒厳令を敷いて、居座るのが一番いいのかも知れない。