エジプトの大統領決選投票が、もうすぐに迫っているエジプトで、クーデターのようなことが起こっている。しかし、このクーデターは軍が、直接軍隊を表の通りに、並べるという方式のものではない。
CNNは今回のクーデター(?)を、ソフト・クーデターと表現したが、これは言い得て妙であろう。実際に、エジプト国内ではムスリム同胞団をはじめとし、リベラル派や一部学者たちも、今回のことを(ある種のクーデター)、と表現している。
いったい何が起こったのかというと、エジプトの憲法裁判所が、先に行われた国会議員選挙は無効であった、という判断を下したのだ。その内容は、一部の当選者たちが立候補するに、ふさわしくない人たちだったことを、理由に挙げている。
しかし、今度行われる大統領決選投票については、予定通り実施するとし、ムバーラク体制最後の首相を務めた、アハマド・シャフィーク氏がそのまま候補者として、決選投票に挑むことを認めている。
これはなにを意味しているのであろうか。簡単に言えば、現在エジプトで最高権力の座にある、タンターウイ国防大臣の意向が、働いているということであり、彼が議長を務めている、軍最高評議会の見解だということだ。それを憲法裁判所が、代弁したということではないか。
軍部は今度の大統領決選投票において、どうしても旧体制側の人物である、アハマド・シャフィーク氏を当選させたいということであり、同時に、彼が大統領に就任した後、議会の運営が楽になるように、仕掛けているということではないか。
この手法は、一見乱暴なようにも見えるのだが、必ずしもそうではあるまい。ムスリム同胞団が国会議員選挙で過半数を占め、議会議長のポストを押さえ、憲法改正委員会の過半数を占め、そして大統領職までもがムスリム同胞団の手に渡れば、エジプトは完全にイスラム原理主義の国家になる、という不安がリベラル派の人たちにも、広がっているからだ。
たとえば、ムバーラク大統領の体制が長期化したことに真っ向から反対して『キファーヤ運動』を起こしたガド党の代表などは、アハマド・シャフィーク氏支持に回っている。
彼に言わせると『アハマド・シャフィーク氏が大統領になれば、我々は反対デモが出来るが、ムスリム同胞団のムハンマド・モルシー氏が大統領に選出されれば、デモは危険で出来なくなる。』というのだ。
こうした大衆のムスリム同胞団に対する警戒心を、分析した上での行動が、軍最高評議会による、今回のソフト・クーデターなのかもしれない。いずれの結果が出るかは,あと数日で分かることだが。