元アラファト議長の資金担当者だったムハンマド・ラーシド氏が、ファタハ(パレスチナ解放機構)の隠し口座が、ヨルダンにあることを暴露した。それだけなら特に大きな問題にはならないのだが、その隠し口座の金額が減っていることを指摘し、マハムード・アッバース議長と二人の人物が、それを手にしたということまでばらされて、問題は一気にアラブ中の関心を呼んでいる。
ムハンマド・ラーシド氏が言うには、秘密口座には元々は4400万ドルあったが、現在の残高は3900万ドルになっている。その不足分はマハムード・アッバース議長が第6回大会の折に引き出しているというのだ。
彼はマハムード・アッバース議長と二人の人物が、この秘密口座に手が届くとしているが、この二人の人物とは多分に、マハムード・アッバース議長の子息ヤーセル氏とターレク氏のことであろう。
この資金はアメリカから1500万ドル、それ以外はアラブ友好国からの寄付だということだ。ムハンマド・ラーシド氏の発言はファタハによって否定されたが、ムハンマド・ラーシド氏は秘密講座のある銀行名も、二人の人物の名も、寄付をしたアラブ諸国の名前も明かせると語っている。
これに対し、ファタハ側は不在裁判で彼を15年の投獄の刑に処し、1500万ドルの罰金刑も言い渡している。
ムハンマド・ラーシド氏は彼の名義で、イスラエルのテルアビブにあるバンク・ハポリアにアラファト議長の隠し金口座を持っていた人物であり、アラファト議長とは非常に深い関係にあった。それがマハムード・アッバース議長の代になり、関係が疎遠になったのであろう。
そのことが暴露されたのは、マハムード・アッバース議長がムハンマド・ラーシド氏に対し、応分の対応(金を渡す)をしていなかったためであろう。それがそもそもの始まりであり、いわゆる『金の切れ目は縁の切れ目』というやつであろう。
問題はムハンマド・ラーシド氏が、サウジアラビアのアルアラビーヤ・テレビで、このスキャンダルを暴露した点だ。そのことは、サウジアラビアからのマハムード・アッバース議長に対する資金の流れが、今後は細まって行くことを予測させよう。
別項でも書いたように、アラブ諸国の連帯は薄れ、最近では各国が個別の動き、個別の利害を追求するようになってきている。こうしたマハムード・アッバース議長をめぐるスキャンダルは、サウジアラビアを始めとした湾岸産油諸国に、パレスチナ自治政府や要人への資金提供を、減らす口実を与えることになろう。
他のアラブ諸国の元首が失脚して行った裏には、元首の妻や子息の金にまつわるスキャンダルがあった。チュニジアのベン・アリ大統領の妻、エジプトのムバーラク大統領の妻と子息たち、リビアのカダフィ大佐の子息たち、そしてシリアのアサド大統領の妻、ヨルダンのアブドッラー国王の妻と、国家元首の家族たちが、金にまつわるスキャンダルの、原因になっているのだ。
いまマハムード・アッバース議長も同じ様に、金にまつわるスキャンダルに襲われている。彼が言う『パレスチナ人によるイスラエルに対するアラブの春革命』ではなく、『パレスチナ人によるマハムード・アッバース体制に対するアラブの春』が始まる可能性の方が高まっているのではないのか。