今年の3月にカイロを訪問した折、旧知の友人が現状を細かく説明してくれた。そのなかには幾つも印象に残る話があったのだが、一番納得がいったのは以下のような話だった。
友人は『佐々木ほとんどのエジプト人は、デモも戦争も嫌いないんだよ。いま起こっているデモなんて、ごく一部の連中のものであって、大衆を代表しているとは言えないんだよ。
インテリは黙っているだけで、いま起こっていることに対して、全面的に賛成しているわけじゃないんだ。ましてや生活が大変な貧困層は、デモなんかに参加している余裕はないんだよ。
彼らは一日も早く混乱状態が収まって、仕事が順調になることを望んでいるんだよ。」
そうであろう、そうだとすれば何時の段階かで、このサイレント・マジョリテイの意見が、表面に出てくる時が来るだろうと思っていた。
それがやっと5月の4日ごろから、表面化し始めたようだ。この日、アルコッバ・ガーデン・スクエアーに数十人の人たちが集まり、『我々はすべてエジプト軍人だ。』というプラカードを掲げたのだ。
加えて、彼らサイレント・マジョリテイの代表者たちは『軍隊に満足であり、外国の差し金を受ける連中の行動を拒否する。』と訴えた。
同時に、このグループはムスリム同胞団の自由公正党に対しても、その専横的台頭に反対する立場を明らかにした。
現段階では何千人何万人という数には至っていないが。今後拡大していく可能性があろう。しかも、大統領選挙を控えた現段階のこうした動きは、沈黙を続けるサイレント・マジョリテイの人たちを、十分に刺激するだろう。
アムル・ムーサ元アラブ連盟事務総長も、ムスリム同胞団やサラフィ組織が国防省にデモを仕掛けたことについて、厳しい反対意見を述べている。イスラエルはエジプトに対し警戒心を強めているいま、国防省にデモを仕掛け、しかも、中に入ろうなどというのは、言語道断であろう。
エジプトの大衆のデモ熱が、一部冷め始めたと期待したい。エジプトは何と言っても、アラブのかなめの国家であり、しかも、中東の重要国なのだから、冷静さを一日も早く取り戻してほしいものだ。