エジプトではいまだに一部国民による、軍に対する抗議デモが繰り返されている。そのデモの中心は青年層の世俗派であり、サラフィのイスラム原理主義者たちだ。
青年層は軍が早急に国民に権限を委譲することを要求しており、サラフィのイスラム原理主義者たちは、先に行われた大統領選挙立候補で、自派候補ハーゼム・アブイスマイルが失格にされたことを、根にもっているというのが本音であろう。
数日前には国防省に対するデモが起こり、投石だけではなくモロトフによる攻撃も行われ、大惨事となった。そのなかで20人ほどの若者が死亡したが、これは暴漢たちによる銃撃などによるものだった。
この暴漢たちについては諸説あり、デモに怒りを抱いている一部の民間人であり、彼らはカイロで仕事が出来なくなったのは、デモが続いているためだと恨んでの行動だったというものだ。
他方では、休暇中の軍人や警察が平服を着込んで、この暴挙に及んだというものだ。この説明は尤もらしく聞こえるが、私には信じがたい。軍はこの時期にそのような暴力的対応をすれば、必ず事態はエスカレートし、収拾が付け難くなるからだ。
軍にはそれ以外の対応方法があるからだ。こうした混乱状態に嫌気をさした軍最高評議会は、一日も早い民間への権力移譲を考えているようだ。そのためには予定通り大統領選挙を実施し、新大統領を選出し、新大統領に権限を委譲するというものだ。
それもそうとも考えられるが、もう一つの可能性がある。それは軍最高評議会がデモの混乱を放置し、国民がデモを支持しなくなり、軍に対し秩序の回復を声高に求めるようになるのを待つということだ。そうなれば、結果として軍は今後もエジプトの最高権力機関として、存在し続けることが出来よう。
そうした推測が真実味を帯びてきたのは、5月3日に軍の幹部が行った記者会見による。この記者会見の中で『軍は場合によっては戒厳令を発動し、秩序の回復を図る。』というものだった。
もし戒厳令が施行されれば、選挙は実施されないかもしれない。もし実施されたとしても、戒厳令下で行われた選挙で選出された大統領は、軍に対して何の発言権も、国民に対しての実権も伴わない、存在になる可能性がある。
つまり、軍の傀儡としての大統領ということだ。何が正解かは分からないが、結果は間も無く出よう。