エジプトとイスラエルの関係は、1979年に旧キャンプ・デービッド合意を交わして以来、冷たいながらも平和な関係が、続いてきていた。そのため、両国は中東最大の軍事大国に対し、戦争に備える必要のない時間が、経過してきていた。
しかし、ここにきてイスラエル側は、エジプトを中東で最も危険な国家として、認識し始めているようだ。それは、キャンプ・デービッド合意の一部でもあった、シナイ半島産のガスを、イスラエルが特別安価で入手してこれていたが、今回契約期間が過ぎたということで、エジプト側が期間の延長を断ったからだ。
イスラエルにしてみれば、ほぼ半永久的にエジプトはシナイのガスを、安価で提供してくれるものと、思っていたようだ。そうでもなければ、イスラエルが仮想敵国であるエジプトのガスに、40%も依存するようなことはなかったろう。
このシナイ半島のガスが安価に、しかも長期間にわたって、イスラエルに輸出されていたのは、シナイ半島をイスラエルがエジプト側に返還することと、表裏一体の関係だったのであろう。
このガス契約が切れ、しかも延長されないということがあってから間もなく、イスラエルのリーベルマン外相が突然、エジプトをイラン以上の危険な国家だと言い始め、ネタニヤフ首相に対してもそのことを強調している。
リーベルマン外相の考えでは、シナイ半島のガス輸出を反故にするような国なのだから、将来和平合意も反故にするのではないのか、ということであろう。
他方、エジプトのオマル・スレイマーン副大統領(元情報長官)も、イスラエルがシナイ半島に軍を進めるのではないか、と警戒している。
イスラエルはエジプトが革命騒ぎで、国内混乱に陥っていたことを、内心喜んでいたであろう。つまり、そのような国内混乱状態では、戦争など考える余裕がないからだ。しかし、イスラエルの期待とは裏腹な方向に、エジプトは向かっているのではないか。
エジプトの議会選挙でムスリム同胞団が勝利し、与党になったことは既に誰もが知るところだが、イスラエルがいま頭を痛めている、ガザのハマースも同じムスリム同胞団なのだ。
エジプトのムスリム同胞団とガザのハマース(ムスリム同胞団)との関係が、今後進展していけば、エジプトとイスラエルとの間に、戦争は起こらないまでも、エジプトはガザのハマースを、扇動することはできよう。
そのことはハマースを勇気づけ、イスラエルに妥協し続けているファタハ(パレスチナ与党)を、苦しい立場に追い込んでいくことになろう。結果的にファタハ、パレスチナ自治政府は、次第に強硬派に変貌していかざるを得ないかもしれない。