独裁者カダフィを打倒する革命がリビアで起こり、遂にカダフィ大佐は最後の時を迎えた。それは昨年の10月23日のことだが、以来革命に勝利したリビア国民は、国家の金も政治も、あらゆるものを自由に出来る、と考えているのであろう。
その結果、いま周辺諸国では迷惑なことが起こり、日に日にその被害を拡大している。それは革命闘争に参戦し負傷し、あるいは病気になったとするリビア国民が、周辺諸国に治療のために、出かけていることだ。
ある者は病院に入院して治療を受け、ある者はホテルに滞在して通院しているのだが、全てとは言わないが、どうも彼らがいまだに治療を必要としているのかどうか、疑問が沸く者たちもいる。
カイロで見かけたリビア人たちは、観光かと聞くと、決まって怪我の治療だと言うが、食欲は旺盛であり、身体の何処にも問題はなさそうだった。彼らに話しかけると、決まって『俺たちは革命を戦い、そしてカダフィに勝利したんだ、詰まりジハーデスト(聖戦の兵士)だよ。』と胸を張って言うのだ。
ところがそのジハードはいいとしても、滞在先では大分迷惑がられているようだ。ヨルダンが我慢できずに、このことを報道し始めている。これまでに、ヨルダンを訪問して治療を受けたリビア人の数は、5万人を超え、彼らの治療費と滞在費の合計は、1億2000万ヨルダン・デナール(JD)約138億円にも達しているというのだ。
そのうち、リビア政府がこれまでに支払った額は、2000万JDで、つい最近になって、あと5000万JDを支払うという通知を、ヨルダン政府はリビア側から受けたということだ。ヨルダンではリビア政府が支払ってくる金を、ホテルや病院で分配しなければならないが,どうその金を分配するかが、問題になってきているようだ。(1JD=115円)
経営状態のいい病院やホテルと、経営状態が悪くリビア人の支払いが滞っていたために、倒産しそうな状態に追い込まれている、ホテルや病院があるからだ。また、残金が何時支払われるのかも、明らかになっていない。
以前、ヨルダン政府がリビア側に支払いを求めたとき、リビア政府は『当分待ってくれ、資金の手当が付かない。』と返答していた。しかし、今では石油生産と輸出が、革命前の状態とほぼ同じになっているというのだから、そんな言い訳は通じまい。
問題はリビア国民のこの大散財が、カダフィ体制の時代は認められており、なんら問題はなかったということだ。もし、リビア新政府が支払いに困り、リビア国民に外国での治療は控えるように、ということになれば、たちまちリビア国民はリビア新政府に反発しよう。困ったことに彼らは皆、機関銃を持っているのだ。したがって、新たな革命や国内暴動が起こる危険性すらあるのだ。
いまリビアのジハーデストたちの治療に来ている国は、ヨルダンに限ったことではあるまい。エジプトでも相当数を見かけたし、トルコやマルタ、イタリア、イギリス、フランスにも、チュニジアにもモロッコにも、治療に出かけているものと思われる。
革命は全ての国民に平等の権利を与える、ということだろうが、その付けが全てリビア新政府に回り、 リビア新政府の支払いが遅れれば、周辺諸国はとばっちりを受ける、ということのようだ。カダフィ大佐が行っていた国民福祉が、今になってリビア新政府を、苦しめているということのようだ。