『エジプトの混沌第二弾』

2012年4月17日

 エジプトがアラブの春革命に成功して、既に1年が経過している。その間、エジプトでは何がどう改善されたのであろうか。実は何事も改善されないばかりか、逆に混乱が増し、経済は悪化し、失業者は増大し、インフレが高じているのだ。

国民会議選挙でほぼ半数を勝ち取ったムスリム同胞団は、当然何らかの改善策を取るはずなのだが、全く機能していない。ムスリム同胞団にとって過去一年間は、権力闘争に狂奔した年だったと言えるのではないか。

国民会議選挙で勝利し第一党となり、議会議長職もムスリム同胞団の組織した、自由公正党から選出され、憲法改正員にも最大数の代表を、送り出すことに成功している。

しかし、それが何の成果も国民にもたらしていないために、次第に飽きられ始めているようだ。今回進められている大統領選挙で、ムスリム同胞団は当初候補者を出さないと言っていたのだが、結果的には離党して立った一人と、ムスリム同胞団が結成した政党、自由公正党から正式に、二人が立候補することになった。

ムスリム同胞団の権力掌握欲は、エジプト国民の間に反発を生みつつある。ムスリム同胞団は自派に対する反発を、何とか軍に振り向けようとしているが、なかなかうまくいっていないようだ。

それは、軍人出身の旧体制幹部だった、オマル・スレイマン氏が大統領候補のなかで、トップの人気を獲得していることから分ろう。

結果的には、選挙委員会が立候補届け出者の条件を審査し、可否を決めたがオマル・スレイマン氏もムスリム同胞団のハイラト・シャーテル氏も、失格になった。加えて、イスラム原理主義組織サラフィの代表であるハーゼム・アブイスマイル氏も失格となっている。

もちろん、現段階では失格だが今後一定期間内に、権利回復の余地は残されている。なかでも、オマル・スレイマン氏の場合は、立候補者は各県から1500人の支持者を集めなければならない、といいう条件を満たしていないだけであり、確実に再登場してこよう。

しかし、ハイラト・シャーテル氏の場合は犯罪歴、受刑から6年が経過しなければ立候補できない、という現行法に違反しているために、復帰は無理であろうし、ハーゼム・アブイスマイル氏は母親が、アメリカ国籍を取得していたことにあるため、復帰は困難と思われる。

そうなると、今後予想されるのは、立候補資格審査の最終発表が行われた後の、失格者支持者による暴動の危険だ。そして、5月23,24日に行われる大統領選挙の投票日と、その後の結果が発表された段階で、デモ暴動の発生が予測されよう。

エジプトが抱えている危険性は、これだけではない。6月2日にはムバーラク前大統領に対する、裁判結果が出ることになっている。弁護士をはじめとする専門家筋は、ムバーラク大統領に対する、無罪判決が出ると予測している。

 ムバーラク前大統領に対する起訴事実は、シャルム・エルシェイクの別荘取得をめぐる贈賄疑惑と、革命時のデモ隊に対する発砲命令をめぐるものだ。しかし、シャルム・エルシェイクの別荘については、現在では当時の5倍ほどに値上がりしているが、取得時の他の物件の価格と比べ大幅に値引きしているとは言えない。デモに対する発砲命令についても軍や警察は否定している。

 もし、ムバーラク前大統領に対し裁判所が、無罪判決あるいはそれに準じる微罪判決を下した場合、大衆による抗議行動が、起こることは確実であろう。そして最後に予測されるエジプトの危険は、6月に行われる予定の大統領決選投票だ。

 こうした危険予測があることから、場合によっては大統領選挙が中止になるのではないか、という予測も出ている。それ以外にも、軍最高評議会(現在のエジプト最高権力組織)は軍最高評議会から民間の政府に権力が移行するに先だって、憲法の改正がおこなわれる必要があると強調しているため、少なくとも2カ月は選挙が先送りされるのではないか、という予測も出ている。

 もし、エジプトで大統領選挙が実施されなかった場合、その場合も大衆によるデモ暴動の可能性は否定できない。よほど重要な用事でもない限り、当分エジプト訪問は見合わせた方がいい、ということではないか。観光などもってのほかであろう。