当初はエジプト大統領選挙に、自党の推薦候補を立てないというのが、ムスリム同胞団の方針だった。このためムスリム同胞団のメンバーである、アブドルファットーフ氏が立候補すると言い出したとき、ムスリム同胞団は自党自由公正党の候補者とはしないことを、明らかにしていた。
多分、それはムスリム同胞団が国会議員選挙で、大勝利することを予測しており、その上大統領職までも押さえることになれば、国民のなかでムスリム同胞団の独裁に対する、不安が広がると考えてのことだったのかもしれない。
その考え方は間違っていなかったと思う。しかし、ここに来てムスリム同胞団は、自党の推薦候補を擁立することを、決定したようだ。彼の名はシェイク・ハイラト・アッシャーテル師で、ムスリム同胞団のナンバー2の人物だ。
彼は現在62歳で大金持ち、ムスリム同胞団内ではトップよりも影響力がある、と言われている。それは彼が12年間も、刑務所暮らしをした経験から来る、貫禄であろうか。そもそも、ムスリム同胞団が政党を結成することにしたのは、彼の発案だったということだ。
問題は、このムスリム同胞団の大統領候補擁立が、軍最高評議会との関係を、ますます悪化させるのではないかということだ。軍最高評議会が推薦するわけではないが、オマル・スレイマーン副大統領は大統領選挙に、立候補する意志があるかと訊ねられたとき、国家に尽くすのが自分の役割であり、押されればその任に就くと語っている。
今後軍が取れる選択肢は、オマル・スレイマーン副大統領を大統領候補に擁立し、ムスリム同胞団と真正面からぶつかるか、あるいは軍最高評議会が、権力を手放さないかの、いずれかであろう。
状況から判断すると、軍最高評議会は何らかの理由をつけて、権力を握ったままで行くのではないかと思われる。
しかし、それは改革を望む国民の間から、軍に対する非難を、呼び起こすことになるであろう。軍としてはなかなか難しい局面に、立たされているということではないか。
しかし、軍にはクーデターという選択肢も、残されているのであろう。当分の間、社会的な混乱を放置し、国民の多くが力による混乱の収拾と、状況の制圧を望むときに、軍は動き出すのかもしれない。