『H・アッシャーテルの立候補とその衝撃』

2012年4月 3日

 エジプトの大統領選挙を、あと1カ月後に控えたなかで、ムスリム同胞団ナンバー2のハイラト。アッシャーテルの立候補宣言は、内外に大きな波紋を呼んでいるようだ。

エジプト議会のおよそ半数をムスリム同胞団が抑え、憲法委員会委員の大半を抑え、議会スポークスマンのポジションを抑えたムスリム同胞団が、今後国内外政治で、イスラム色を色濃くしていくのではないかという不安が、広がり始めているのだ。

憲法委員会からはムスリム同胞団による、独壇場になることを嫌い、幾つかの組織が抜け出している。例えばコプト・キリスト教の代表は、憲法委員を辞任している。その数は20人にも上るのだ。

コプト・キリスト教徒たちは革命が達成されたのち、ムスリム同胞団が結成した自由公正党に加わり、副代表の座を与えられていたのだ。それは述べるまでもなく、長い間弾圧されてきたムスリム同胞団は、マイノリテイの心境を理解してくれる、と信じ願ったからであろう。

しかし、その後の展開は、次第にマイノリテイにとって、心地よいものではなくなってきているのであろう。そのコプト教徒のムスリム同胞団に対する、不信感が頂点に達したのは、ハイラト・アッシャーテル氏の立候補であったろう。ムスリム同胞団はこれまで、大統領選挙には候補者を出さない、と約束していたにも関わらずだ。

コプト・キリスト教徒と同じように、エバンジュリカン・クリスチャン組織も、憲法委員会から撤退している。彼らもマイノリテイの将来が、保証され難いと考えたのであろう。

 同じイスラム組織でも、アズハル大学の学者たちはムスリム同胞団の行き過ぎた突出に、不安を抱き始めているようだ。同じスンニー派であり、しかもイスラム世界では国際的に権威あるアズハル大学が、憲法委員会から退いたのだ。

 こうなると、ムスリム同胞団の信頼性が疑われる恐れさえ、出て来るということではないのか。世界のイスラム教徒たちが、アズハル大学の反対した憲法委員会を牛耳る、ムスリム同胞団に対して、警戒心を持つ可能性は否定できまい。すでに、アラブ首長国連邦はムスリム同胞団の横暴ぶりについて警戒し「ムスリム同胞団はアラブ諸国をかき回し、不安定化させている。』と高官が語っているのだ。 

 これに加え、アメリカの議員たちがムスリム同胞団のイニシャチブに、不安を抱き始めたのであろう。アメリカから共和党の議員代表団がエジプトを訪問し、ハイラト・アッシャーテル候補に面会し、2時間にも及ぶ激論を交わしたようだ。

 そのなかのメイン・テーマは、ムスリム同胞団主導のエジプトは、イスラエルとの関係をどうしていくつもりなのか、という点にあったようだ。

ハイラト・アッシャーテル氏に対し、アメリカ共和党の議員団はキャンプ・デービッド合意を始めとする、エジプト・イスラエルがこれまで交わした合意を、どう取り扱うのかについて、問い質したようだ。

これに対し、ハイラト・アッシャーテル氏は『イスラエルとの治安と平和が重要である。』と語ったと伝えられている。今回のアメリカ共和党議員団の訪問は、訪問団とハイラト・アッシャーテル氏側との、最初の探り合いであった、ということであろう。(なお、ハイラト。アッシャーテル候補は立候補に先立ち、アメリカのマケイン議員と立候補の是非を相談したという情報がある。)

5月の選挙が近付くに従って、ムスリム同胞団は内外からの厳しい監視の下に置かれていくことになろう。それと同時にエジプトの軍部がどう動くのかが注目すべき点であろう。一部マスコミでは、今回のハイラト・アッシャーテル氏の立候補は、ムスリム同胞団にとって、ギャンブルだったと報じているが?