サウジアラビアはメッカとメジナという、二つのイスラム聖地の有する国だ。このためサウジアラビアのアブドッラー国王は、自身を二つの聖地の奉仕人と自認している。
そのサウジアラビアでイスラム教の、最も権威ある地位にいる人物を、グランド・ムフテイと呼んでいる。グランドは大きい偉大なといった意味でありムフテイは宗教的権威者を意味する。
そのグランド・ムフテイであるシェイク・アブドルアジーズ・ビン・アブドッラー師が暴言を吐いたことが、今イスラム世界では大きな問題になっている。彼はアラビア半島にあるキリスト教教会を、破壊しろというとんでもない、ファトワ(宗教裁定)を下したのだ。
サウジアラビア国内にはキリスト教教会は無いが、クウエイトやカタール、アラブ首長国連邦、バハレーンには教会としての、独立した建物の数は少ないにしろ、礼拝所は幾つもあるはずだ。
これをすべて破壊しろということは、真正面から宗教戦争を仕掛けたようなものではないか。その逆に、キリスト教世界がイスラム教徒の礼拝所である、モスクを破壊しろという決定を下した場合、イスラム教徒たちはどう反応するだろうか。暴動が起きるであろうことは、想像に難くない。
クウエイトの国会議員の中からも、キリスト教教会の廃棄を主張する者が出てきているが、これはイスラム教の教えに反するものであろう。イスラム教は宗教の自由を認め、それぞれが自分の宗教を信じて、いいことになっている。なかでもキリスト教やユダヤ教のような天啓宗教は、イスラム教と同根であり問題はないはずだ。
このサウジアラビアのシェイク・アブドルアジーズ・ビン・アブドッラー師の発言に、真っ先にかみついたのは、イランの宗教組織だった。イランのアハルルベイト組織は、シェイク・アブドルアジーズ・ビン・アブドッラー師の発言は受け入れがたいとし『サウジアラビアのイスラム教は正しいイスラム教ではない。』とまで言い切った。
これから先、ヨーロッパやアメリカのムスリムの間から、多分にクレームが付いて来るものと思われる。しかも、もしサウジアラビアがキリスト教教会の破壊を主張し続ければ、キリスト教教会に対するイスラム教徒による、テロが正当化されることになり、テロが起こる危険性があろう。
そうなった場合、古い考えを持った、偏狭なイスラム教指導者の発言だけでは、済まされなくなるのだ。このシェイク・アブドルアジーズ・ビン・アブドッラー師の発言は、宗教戦争すら起しうる危険なものだ。無知が生み出した発言であろう、OIC(イスラム諸国会議)が早急にこの見解に、否を唱えるべきであろう。