「パレスチナの元首相A・クーリエが1国家案を提唱」

2012年3月18日

 パレスチナ自治政府の元首相であったアハマド・クーリエ氏が、一国家案を提唱し始めた。1国家案とはパレスチナとイスラエルという、二つの国家が隣接して設立されるのではなく、パレスチナがイスラエルの国家のなかに、併呑されるという案だ。
 つまり、アハマド・クーリエ氏は、パレスチナの独立した国家の設立をあきらめて、イスラエルの国家の一部となることを、選択したということだ。それは何十年にも渡る武力闘争と、政治闘争の結果が、何も生み出さなかったことに対する、諦めと不満から出てきた選択であろう。
 アハマド・クーリエ氏はイスラエルが、ヨルダン川西岸地区や東エルサレムで、入植地を建設し続けており、新たな現実を固定化し押し付けてきていることを非難している。
そうした状況下では、イスラエルに隣接するパレスチナ国家を設立する2国家案は、海を耕すような無意味なコメディでしかないと彼は言うのだ。
 パレスチナ国家の設立について、西側諸国はパレスチナの夢の実現を支援することに失敗し、アラブ諸国も同様だった。そうしたなかから、パレスチナ幹部の間で、1国家案を真剣に検討する者が、出てきたということだ。
 パレスチナ自治政府のマハムード・アッバース議長も、1国家案を検討し始めているようだ。最近になって、ヨルダン川西岸地区では、アハマド・クーリエ氏が1国家案を語る少し前に、1国家案を提唱するポスターが各地に、張り出されたということだ。
 そのポスターが誰によって製作され、張り出されたのかは不明だが、ファタハのメンバーがあわてて、ポスターを撤去したと伝えられている。しかし、常識的に考えれば、ファタハのメンバーあるいは、パレスチナ自治政府の幹部の関与無しには、ありえないことであろう。
 さて、このアハマド・クーリエ氏の1国家案が今後、パレスチナ内部のメイン・ストリームに、なっていくのか否かだが、当然のこととして、ハマースはこの案に、真っ向から反対しよう。
 それはハマースも1国家案を考えているが、ハマースの1国家案はイスラエルを否定し、全ての土地をパレスチナ国家の領土とする、という考えだからなのだ。ハマースはパレスチナをイスラエルに飲み込ませる案には、絶対反対の立場を、堅持しているのだ。
 それでは相手のイスラエルは、どう考えどう対応してくるのであろうか。イスラエルは以前から国内に抱え込んでいる、イスラエル国籍を取得したパレスチナ人に対する対応ですら、手を焼いているのだ。イスラエル国籍を持つパレスチナ人の増加率と、イスラエル・ユダヤ人の増加率では、パレスチナ人の方がはるかに高く、パレスチナ人口が増えており、将来はパレスチナ・イスラエル人の方が、多数派を占めることが懸念されるからだ。
 そうなると、イスラエルが考えるであろうことは、出来るだけ多くのパレスチナ人をヨルダン川西岸地区や、東エルサレムから追放する、合法的な方法だということになろう。以前に書いたヨルダン川西岸地区での鉄道建設は、パレスチナ人追放の合法的手段ではないかというのは、そうした背景があってのことなのだ。
 したがって、現段階でイスラエルは、パレスチナ側が正式に1国家案を提案してきたとして、受け入れるはずは無い。何百万という数のパレスチナ人を自国民として受け入れた場合は、イスラエル政府は全ての面で、面倒をみなければならなくなるのだ。
 彼らはイスラエル・ユダヤ人と、同等の権利を主張してこようし、あっという間にイスラエル人口のマジョリテイが、パレスチナ人になってしまい、選挙をやれば大統領も首相も他の閣僚も、パレスチナ人が就任することになろう。これでイスラエル側が、そんなことを受け入れるはずはない、ということは誰にも分かろう。
 では何故、アハマド・クーリエ氏は1国家案を、いまになって言い出したのであろうか。多分にパレスチナ問題は世界でも、中東でも、アラブ諸国の間でも、主要課題ではなくなったことにあろう。
その結果、世界から寄せられる寄付も、激減しているということによるのではないか。しかし、それは解決策でもなんでもなく、単なるパレスチナ人のゴネであり、愚痴としてしか、受け止められないのではないか。アハマド・クーリエ氏が今回の提案をしたのは、間接的な形の『金をくれ』ということ以外の、何物でもあるまい。