イスラエルあるいはアメリカによる、イラン攻撃に向けての時計が動き出したというニュースが、ネット上で流れている。それによると、残された時間は10分だということだ。この10分の数字が減るのは、危険が迫る要素が出てきたときであり、逆に数字が増えるのは状況が平和に向かっている要素が、現れたときだ。
つまり、戦争への時計は10分とは言っても、10分にも1000時間にも1年にも変化する性質のものなのだ。
アメリカは基本的にはイランに対する、軍事攻撃を望んでいないようだ。アフガニスタンとイラクでの戦争で、膨大な軍事費を費やし、アメリカ経済は最悪の状態にある。
戦争で戦死し、あるいは重傷を負ったアメリカ兵の数も相当であろう。したがって、これ以上アメリカは犠牲を払いたくない、ということであろうか。アメリカのオバマ大統領は『戦費を払うのも兵士が犠牲になるのもアメリカだ』と明確に語り、共和党候補の選挙のための戦争扇動発言を戒めている。
アメリカはそれで済むが、イスラエルは全く話が別のようだ。もし、イランの核兵器開発を放置すれば、やがてはイランが核兵器保有国になり、イスラエルに対して核兵器で攻撃してくる。
領土面積の小さいイスラエルは、核兵器が1発か2発落されれば、イスラエルは壊滅的な打撃を受ける程度では済まされず、国家そのものが消えてなくなってしまう危険が、現実に存在するのだ。
イスラエルは中東にあって、唯一の核兵器保有国の地位を、なんとしても守り続けたいと考えている。そのためには、他の中東の国が核兵器を持つことは、断固阻止しなければならないということだ。
結果的に、イスラエルはイランの核施設に対し先制攻撃を加え、イランの核兵器開発を止めたい、と真剣に考えるようになった。だが、そのことは大きな他のリスクを、イスラエルにもたらすことにもなる、危険な選択なのだ。
イスラエルがイランに対して攻撃を加えれば、アメリカも参戦しなければならなくなろう。たとえアメリカが参戦しなくても、イランへの攻撃は世界の石油の大半を生産する、湾岸地域を破壊する危険をもたらし、ペルシャ湾の出口ホルムズ海峡が、閉鎖される可能性があることから、石油価格が暴騰し、世界経済は大打撃を受けることになろう。
たとえイスラエルが成功裏に、イランの核施設を破壊できたとしても、世界経済を危機的状態にすることから、イスラエルは世界中から敵視されることになろう。イスラエルとユダヤ人に対する迫害やテロ、蔑視の感情が、世界中で広がるということだ。
加えて、イスラエルの攻撃が完全な成功を収め、イランのすべての核兵器開発施設を破壊したとしても、それはモノの破壊であって、イランの科学者の頭脳の中にあるものを、破壊できたわけではない。イランの核施設に対する攻撃は、結果的にイランの科学者たちを、奮起させることになろう。つまり、大リスクを覚悟で行うイランに対する攻撃は、イランの核開発を数年遅らせる効果しかないということだ。
忘れてならないのは『イランは核兵器を開発する意志があるのか?』『イランは本当に核兵器を開発しつつあるのか?』ということだ。イランの最高指導者ハメネイ師は『核兵器開発は罪であり許されないことだ。』と断言している。
しかし、イスラエルがイランの核施設を破壊すれば、核兵器開発は自国防衛の手段として、正当な行為に変わるのだ。同じイスラム国のパキスタンが好例であろう、インドが核兵器を開発したことによって、パキスタンは自国防衛を根拠に、核兵器の開発を断行したのだ。
イスラエルの世論は58パーセントが、イラン攻撃に反対しているそうだ。そして、ネタニヤフ首相の行動は最も妥当だという評価が、イスラエル国民から下されているそうだ。彼はいまだに外交的解決に一縷の望みを、託しているからであろう。
イスラエルの軍や情報部の幹部たちは、押しなべてイラン攻撃の危険性と、リスクを訴えている。戦争を望むのは政治家たちのようだ。イスラエルのユダヤ人、世界に散らばるユダヤ人が共通して抱いている『ホロコーストの悪夢』と『マサダ・コンプレックス』を煽り立てているのだ。
イスラエルとイランそして世界にとって、いまこそ冷静な賢者の登場が待たれる。イランの核問題は既に駆け引きの段階を過ぎて、危険な領域にあるのだから。私は結果的に外交が、軍事に勝ることに賭けたい。