「 イスラム原理主義であり、かつ反イスラエルで世界的に知られるイランには、イスラエルに次いで中東諸国のなかで、ユダヤ人が多く住んでいるということのようだ。
一体どうしてなのだろうと思うが、イランには古くからユダヤ人が住んでいたのだ。彼らは何百年あるいは、1000年以上にも渡ってイランに住み着いており、まさにイランこそが父祖の地になっているのだ。
それでは一体どの程度のユダヤ人が住んでおり、どのような環境に彼らは暮らしているのだろうかという疑問が湧いてくる。実はイランではユダヤ人は何の宗教的迫害も受けることなく、宗教の自由を満喫しているのだ。
それとは対照的に、イランに始まる拝火教徒(ソロアスター教徒)はというと、彼らは宗教的差別や場合によっては、弾圧をうけることもあるのだ。その理由は、ユダヤ教徒がアブラハムの宗教、つまり天啓宗教の信者であるのに対し、ゾロアスター教徒は火を拝む宗教だからだ。
イスラム教徒にはユダヤ教やキリスト教は、同じ唯一の神によってもたらされた宗教、という認識があるのだ。したがって、宗教的差別をしないのは、宗教的教理によるものなのだ。
もちろん、同時に政治的な対外宣伝の意味もあって、ユダヤ教徒は迫害を受けていないのかもしれない。それは他のイスラム教の国で、キリスト教徒との対立を見ると、そう思えるふしもないではない。
イランのユダヤ教徒は宗教的自由を保障されたなかで、現在25000人が住んでいるということだが、そのほとんどは首都のテヘラン市に居住しているものと思われる。それ以外にも、地方の大都市たとえばイスファハーン市などには、ユダヤ教徒のコミュニテイがあるものと思われる。
しかし、イランのユダヤ教徒が安全と自由と権利を保障されているのは、案外最近のことかもしれない。1960年代には多くのイランのユダヤ教徒が、イスラエルに移住したのだ。
そのイランから移住したユダヤ教徒は、現在イスラエルに10万人から20万人いると言われており、イスラエル国内ではそれなりの存在感が、あるのではないか。
彼らは最近のイスラエルとイランとの緊張状態を、どう受け止め、どう考えているのであろうか。あるイランから移住したユダヤ教徒は、イランに対する強硬な対応は、事態を悪化させると語り、その理由を次のように述べている。
1:外圧をかけることはイランの現体制に、正統性を持たせ延命させてしまう。
2:外圧をかけることはイラン側に、核兵器を作りたいという願望を強める。
確かにその通りであろう。イランではハメネイ最高指導者が、核兵器を開発することはハラーム(罪悪)だ、という宗教裁定を下している。したがって、イランが独自の意思で核兵器を開発することは考えられないが、イスラエルが核兵器で恫喝する場合は、その限りではなかろう。
同じイスラム国家であるパキスタンは、インドが核兵器を開発したことによって、防衛目的の核兵器の保有はハラール(許される行為)、と判断しているからだ。