シリアでは毎日多数の国民が内紛の犠牲となっている。3月11日にはホムス市で47人もの女子供が、虐殺されたというニュースが伝わってきた。その犯行は反政府派に言わせれば政府側の軍人がやったろうということになり、政府側に言わせれば反政府側のミリシアによる犯行だということになる。
真偽のほどはわからないが、子供たちの四肢をばらばらに切断したり、首を切り頭を切り落とす、という犯行状況から考えて、普通の神経の人間の、犯行ではないと思える。
そうしたいまわしい蛮行が続く状況のなかで、多くの将軍たちが、政府から離反し始めている。将校クラスでは大分前から軍を離脱し、反政府側の自由シリア軍に加わる者が増えていた。
混沌とするシリアの国内状況のなかで、一人のシリア要人がフランスを訪問した。そのことは時期が時期だけに、大きな反響と憶測を呼んでいる。その人物の名は、ムスタファ・トラース元国防大臣だ。
彼は妻と一人の息子を伴ってパリ入りしたが、その理由は病気治療だと説明している。確かに彼は以前から心臓に問題を抱えていたのだから、病気治療あるいは健康診断の目的でパリに入っても、何ら不思議はない。
しかし、他方ではムスタファ・トラース氏とバッシャール・アサド大統領の義兄弟のアーセフ・シャウカト国防副大臣との仲違いが伝わってきている。このためムスタファ・トラース氏はパリに入り、フランス政府と秘密交渉したのではないか、という推測が成り立つのだ。
考えられることは、ムスタファ・トラース氏がシリア軍に対し、クーデターを発令することだ。1年にも及ぶ国内での抵抗運動と、それに対する流血の弾圧は、政府、反政府派の双方に、もう十分という気持ちを抱かせていよう。
ムスタファ・トラース氏は妻子を伴っていたことから、フランス亡命という憶測も出たが、どうやらそうではないようだ。彼は今週の土曜日に、ダマスカスに戻ると語っている。シリアにはもう一人の息子、ムナーフ氏が残っているのだ。
願わくば、賢いシリア国民と政府が、これ以上の犠牲と破壊を避けるために、無血のクーデターを受け入れてほしいものだ。その先導役には、ムスタファ・トラース氏が最適であろう、と思われるのだがいかがか。