シリアの反政府派による抵抗運動は、ほぼ1年続いているが、いまだに決着が付いていない。チュニジアやエジプト、そしてリビアの例を考えた場合、どうも不思議な気がするのは、当然ことであろう。
しかし、長期に及んでいまだに、決着が付いていない反政府運動が、まだ二つある。一つはバハレーンであり、もう一つはサウジアラビアのアルカテイーフ地区の、シーア派住民による反政府運動だ。
これら二つに共通することは、外国の関与が弱いか、ほとんど無いということであろう。したがって、反政府派には武器が渡っていない、ということであろう。
加えて、テレビ報道の度合いが少ないということも、挙げられるのではないか。チュニジア、エジプト、リビアの場合は、大々的に報じられており、世界中の人たちが現地で起こっていることに、十分関心を払うだけの材料が、提供されていたのだ。
それでは、シリアの場合はどうであろうか。最近になって、シリアの反政府運動は過剰なまでに、報道されるようになっている。その報道内容が何処まで正確であるのかはさておき、これだけ連日大量の映像を流されると、誰もがシリアのアサド大統領は独裁者だ、というイメージを抱くだろう。
このイメージが出来上がると、国際的な合意が得られようが得られまいが、武器を供与したいと思う国が、行動を起こしても誰も非難すまい。先のチュニスで開かれた、シリア反体制を支援する国際会議では、具体的な介入支援に付いては、合意できなかったようだが、武器の供与をやりやすい環境は、出来上がったということではないのか。
サウジアラビアやカタールはこれまでも、少量の武器や資金を提供していたのであろうが、ここに来てシリアの反政府派に、資金と武器を本格的に送ることが容易になろう。
シリアの反政府派に渡る武器はトルコ、レバノン、ヨルダン、イラクが陸伝いであることから考えられるが、レバノンやイラクについては、断片的な武器の流れの情報が伝わってきていた。トルコもそうであろうが、いままでのところ、トルコはそれを認めていない。
これからは、これらシリアに隣接する国々から、本格的にシリアの反政府派に武器が贈られることになろう(通過を黙認することも含めて)。そうなると、シリア国内の反政府派と政府軍との戦闘は、激化することが予想される。
つまり、シリア国民の間に犠牲が出るのはこれからであって、いままでの5000人、あるいは7000人といわれている犠牲は、数のうちに入らなくなるかもしれない。
それでは、それだけの犠牲をシリア国民に支払わせて、一体何が得られるのか、ということになろう。つまり、一定の成果が期待できるからこそ、行動が起こるのだから、そこには然るべき理由が、あるだろうということだ。
単純に考えて、シリアは石油ガスの通過地点として、極めて便利だということだ。イラクはもちろんのこと、湾岸諸国やイランのガス石油が、シリアを通過できれば、地中海から欧米市場に直結できるのだ。
もう一つは、シリアにも石油ガス資源があるということだ。最近では、イスラエルとレバノン沖の、海底ガス資源が話題に上り、探査から採掘の段階に向かっている。トルコとキプロス島の間でも、同様にガス資源が埋蔵されていることが分かっている。
シリアの場合、海底石油ガス資源の存在は、確認されているが、イラク国境のガス石油資源についても、同様に期待できるのではないか。そして、イラクとの国境地帯には、ウラン鉱が埋蔵されている、可能性も高いようだ。
最後には、イスラエルの安全保障問題を、挙げることができよう。これまでイスラエルに対し、敵対的立場を堅持し、アラブ民族主義の旗頭を自認してきた、アサド体制が打倒されれば、イスラエルはシリアの軍事的脅威を、感じなくて済むようになるのではないか。
シリアは決して貧しい国でも、無価値な国ではないのだ。だからこそ、各国が介入を目論んでいるのであろう。したがって、シリア内戦はこれから、本格的な段階に入っていこう。そして、それは多くのシリア国民が、犠牲になるということでもある。