最近声を出して笑う人が、めっきり少なくなっているように思えてならない。時折聞こえる笑い声は、上司の言った下手なジョークに付き合って、笑ったものであり、余り健康的でない雰囲気が伝わってくる。
日本にはたくさんの笑いを表現する、言葉があると思うのだが、それすらも消えうせ、誰もがお通夜にでも行くような感じで、うつむき加減で出勤し、仕事場でも暗い表情を崩さない。それを神妙というのか、はたまた真面目というのか。
その点、笹川陽平会長(日本財団)は人をリラックスさせる、特殊な能力をお持ちのようだ。私は仕事の関係で、週に何度かお会いするが、決まって冗談が飛び出す。私も会長の冗談に負けていられないとばかりに、双方からの冗談の応酬が始まる。
その日は決まって仕事の調子がいいし、感が働く。笑うということは、脳により多くの血液を送り出してくれる、作用があるからなのかもしれない。
ただ大人の冗談は、ややもすれば卑猥になる。私の冗談はすれすれのところに、何時も納まってるようだと自認しているが、周囲の若い女性からすれば『親父ギャグ』『セクハラ発言』なのかもしれない。それを許してくれるのは、周囲の『女性たちの品格』と 『心のおおらかさ』であろう。
先週の金曜日に『一寸来てくれませんか』という電話があり、7階の執務室まで上がって行くと、会長が最近出した『紳士の品格』という本を、あげるよといって差し出された。PHP 社から出したものだが、読んでみると実に面白い。
本は人柄を表すもう一つの名刺、とよく言われるが、まさにそのとおりだ。会長は自分の周りで起こっている、あらゆる出来事を書き連ねている。それは家庭内の話から職場の仕事がらみ、スタッフとのやり取りから、外部の方々との話のなかで、生まれてきたものであり、何処にも障子を立てていない。
そうした一つ一つのエピソードが笑えるのだから、会長の人柄がそうなのであろう。回りをリラックスさせ、自分も人との接触を楽しんで、仕事をしているということだ。
もちろん、さりげない表現ではあるが、会長の博識ぶりも感じられる。その博識の範囲は、高度なものから、極めて庶民的なものまで、含まれているところにおかし味がある。それは多分に会長の照れによるものではなかろうか、と思われる。
電車の中でこの本を読んだら、きっと読者は誰もがクスッと笑うだろう。フンフンと感心して、うなずく部分もあるだろう。奥様とのやり取りでは『世の男は皆同じだ』という同胞感を抱くだろう。上品な笑い話、楽しい会話をしたいと思う人に、うってつけの参考書であろう。同時に外国勤務の部下への、一番喜ばれるお土産になると思われる。外国勤務の人たちは、日本の国内、なかでも『高貴な人たちの日常』を知ることに飢えているのだから。