ハマースとファタハが連合して、統一政府を作ることに合意した。それまではパレスチナが分裂状態にあり、パレスチナ内部には、二つの政府と二人の首相が存在していた。従って、今回パレスチナの2大勢力が統一されたことは、一見パレスチナ内部の力を、倍加したかに見えるのだが、そうではなさそうだ。
ファタハは設立当初は武力闘争によって、パレスチナの地を解放するつもりだったが、第一次オイルショックで、アラブの産油国が豊かになると、パレスチナPLOに偽善的寄付が送られるようになり、資金が豊かになって腐ってしまった。以来、ファタハは革命闘争組織ではなく、たかりや集団に成り下がった。
その堕落が生み出したのが、パレスチナ国家が設立され、イスラエルと隣接して共存するという、二つの国家論であり、第3次中東戦争以前のイスラエルとアラブの接点を、国境とするという67年国境案だった。
他方、そうしたファタハに失望した、ガザの住民が設立したのが、ハマースだった。ハマースはいまだに、イスラエルという国家を認めず、67年国境案も受け入れていない。時折ハマースが口にする、67年国境案受け入れのニュアンスの発言は、当座の国境として受け入れるが、将来パレスチナはイスラエルに勝利し、パレスチナの全てを領土とする、と考えているのだ。
このファタハとハマースの立場の違いを、最も明確に認識できているのは、述べるまでも無くイスラエルだ。イスラエルがマハムード・アッバース議長を評価し、ファタハをあくまでもパレスチナの代表として認めるのは、マハムード・アッバース議長が堕落しきっているからであり、彼は金で何とでもなる人物だ、と踏んでいるからに他ならない。
日本政府がマハムード・アッバース議長に対して、評価するのも同じ理由からだ。一番妥協しやすい人物を担ぎ上げておいた方が、中東で混乱が発生し難くすることが、出来るからに他ならない。
彼の人格や政治手腕を、評価してではないのだ。もしそうではなくて、マハムード・アッバース議長を本心から、評価しているからだと言うのであれば、日本の外務省は全く情報収集能力も、分析能力も無いということであろう。
イスラエルは冷静な評価を、パレスチナの各組織と人物に、下している以上、今回のファタハ・ハマースの連帯合意は、極めて好都合な出来事として、受け止めているのではないか。イスラエルは『わが国の存在を認めない、ハマースが参加しているパレスチナ政府とは、交渉できない。』と世界に対して説明できるからだ。
これでイスラエルは当分の間、パレスチナ問題を放置し、シリアやレバノン、イランに対する対応に、全神経を集中できるだろう。世界の国々も当分は、パレスチナ問題を放置しよう。元々パレスチナ問題は、中東の主要な問題でも、イスラム諸国の主要な問題でも無いのだ。
パレスチナ問題が重視されるのは『国内問題を誤魔化すため。』『自国がアラブ世界、イスラム世界の中心だと主張したいため。』などであり、純粋に『イスラムの第三の聖地エルサレムを奪還する闘い。』『アラブの同胞パレスチナ人を支援し解放するための闘い。』などと考えている政治家も運動家も、いないのだ。
皮肉な言い方が許されるならば、ファタハとハマースの妥協による、連帯を生み出す仲介の労をとり、成功したカタールは、その意味で本音を暴露する、偉大な成果を挙げた、ということであろう。