「権力の座近付きムスリム同胞団が穏健路線模索」

2012年2月10日

 エジプトではアラブの春革命のおかげで、ムスリム同胞団の自由公正党が第一党に踊り出し、サラフィ集団のヌール党が第二党になっている。当然のことながら、イスラム原理主義同士であるこの二つの党は、今後のエジプト政治を協力しながら進めていきたい、ということのようだ。

 しかし、ムスリム同胞団とサラフィ集団との間には、見解の違いが見え隠れし始めている。ムスリム同胞団はあくまでも、世俗的な政治を実施していくことによって、庶民の支持を維持していきたいと考えているが、サラフィ集団はあくまでもイスラムの理念を厳格に貫く方針だ。

 そこでムスリム同胞団は、サラフィ集団をなだめるべく、アーデル・イマーム氏(アラブ世界で著名な俳優)に対し、3カ月の投獄を決めたのであろうが、それだけではサラフィ集団は満足してくれないようだ。

 最近、カイロにあるアインシャムス大学で録画していたのであろう、テレビのシリーズ番組に、イスラム原理主義の学生たちがクレームを付けた。そのシリーズ番組に登場する女優の服装が、イスラム的に問題があるというのだ。

 そうは言われても、テレビ番組制作会社とすれば、既に録画撮りが進んでおりそれをやり直すとなれば、費用がかさむであろうことから、あっさりは受け入れたくないだろう。

 こうした一連のイスラム原理主義と世俗の間で発生してくる、小さな問題の積み重ねが、やがてはい大きな不満を世俗派に抱かせ、暴発する危険性があろう。それで、ムスリム同胞団は同盟相手であるサラフィ集団に対して、穏健イスラムを説得するのであろうが、どうも成功していないということだ。

 ムスリム同胞団のメンバーも、元をただせばサラフィ集団と同じ、イスラム原理主義の思想に基づいているわけであり、苦しいところであろう。この問題の処理がうまく進まず、一般のイスラム原理主義者やサラフィ集団のメンバーが、イスラム原理主義を強く主張するようになれば、エジプトの大衆はムスリム同胞団の政権に対し、強い警戒心を抱くことになろう。

 権力を手にするということが、思いの外に難しい問題を抱え込むということを、ムスリム同胞団はいま実感しているのではないか。そのうえで軍部との良好な関係を維持していかなければ、何時クーデターを起こされるかわからない、という不安もあろう。

 大統領選挙が近付くにしたがい、軍内部には何故今回は軍から大統領が出ないのか、という不満も高まってこよう。エジプトの内政は極めて微妙かつ、複雑な時期を迎えてきているということであろう。