「アーデル・イマーム氏を裁くムスリム同胞団の愚」

2012年2月 3日

 アラブ世界のなかで、エジプトは最も多くの映画と、テレビ・ドラマを制作している国だ。エジプト人の明るさと軽妙さが、その作品には表れている。そのため、アラブ世界でのエジプト映画やテレビ・ドラマは押し並べて評判がいいのだ。

 そのエジプトの映画界で、最も人気が高いのがアーデル・イマーム氏であろう。彼は政治もの、社会ものなど、各種の映画に出演し、独特の味を出してきている。

 ところが最近、エジプトの法廷は彼に対し、宗教侮辱罪で1000エジプト・ポンドの罰金と、3カ月の投獄という判決を下した。1000エジプト・ポンドは日本円にして2万円程度であり、大金持ちの映画俳優である彼には、痛くもかゆくもなかろう。

 しかし、3カ月の投獄は、極めて不名誉なことではないのか。映画俳優はあくまでも、台本に則って役割を演じるのであって、俳優自らが台本を書くわけでも、映画を製作するわけでもないのだから、彼にそのような罪状が言い渡されること自体が、おかしな話なのだが、ご時世なのであろうか。

 このアーデル・イマーム氏に対する裁判を仕切った裁判官はアスラン・マンスール裁判官だが、彼はムスリム同胞団との関係が、強い人物と言われている。もっと直接的な言い方をすれば、彼はムスリム同胞団のメンバーなのであろう。

 アーデル・イマーム氏は72歳であり、エジプトの映画界では重鎮中の重鎮であり、映画のストーリーや制作にも、大きな発言力を持っていたろう。また、彼はイスラム過激派に関する、映画にも参加していた。

 つまり、ムスリム同胞団にとっては、極めて不愉快であり、社会的影響力も強い人物であったことから、目の敵にしていたものと思われる。

 しかし、いまエジプト社会では、ムスリム同胞団の異常なまでの台頭と、国会占拠状態の中で、世俗派との対立が表面化してきている。

 そうしたなかで、今回の判決が下されたことは、世俗派にとっては、格好のムスリム同胞団攻撃の、口実となるのではないのか。アーデル・イマーム氏のフアンはエジプト国内ばかりではなく、アラブ世界全体に多数いるのだ。

 彼は2010年に、カタールのドーハで開催された映画祭では、生涯賞を受賞しているのだ。

権力を握った側は、往々にして行動が横柄になるが、ムスリム同胞団もその類なのであろう。必ずや近い将来、アーデル・イマーム氏に対する判決が、ムスリム同胞団にとって、不都合な結果を招くものと思われる。