「ムバーラクへのラブコールがこだまし始めた」

2012年2月 1日

 最近と言いうか、過去10日間ぐらいの間に、何本かの記事を目にした。それは押し並べて、ムバーラク前大統領を支持する内容のものであった。例えば、アードリー元内務相の裁判のなかで、ムバーラク氏がデモ隊に対する発砲を、命令したか否かをめぐるやり取りがあった。

 これに対し、アードリー氏は『ムバーラク大統領は命令を発しなかった。』と答えている。付け加えて、ムバーラク氏の弁護士は、ムバーラク大統領自身からはその任を降りると語っていないのだから、現職の大統領だとも語っている。

 デモ隊に対する発砲をめぐっては、軍も情報を知りえる立場にあったため、タンターウイ国防相も証言を求められているが、彼もムバーラク大統領からそのような命令は出ていない、と証言しているようだ。

 そうなると、裁判はどう進むのであろうか。発砲に関する命令については、内務相が発したのであれば、彼がその責任を取ることになり、ムバーラク氏がその件で裁かれることはあり得ない。つまり、発砲命令については、ムバーラク氏は無罪になるということだ。

 加えて、シナイ半島で生産されるガスの、イスラエル向け輸出についても、ムバーラク氏は関与していなかった、という証言がなされており、この件でも彼は無罪ということになる。それでは何を持って、ムバーラク氏を裁くのであろうか。

 次いで、ムバーラク氏が妻に対し、彼の友人であった各国の元首に働きかけ、無罪になるようにしてくれと依頼した、ということも明かされている。もしかすると、カイロの街に出回っている、ムバーラク氏と彼の二人の息子アラーアとガマールとの、絞首刑のポスターに、恐れをなしたのであろうか。

 つい最近では、月刊新聞がムバーラク氏擁護論を展開している、その内容の要点は次のようなものだ。

1:ムバーラク氏の尊厳を守り彼を釈放しろ。

2:革命は国家に損失だけを生み出した。

3:革命はムバーラクを追放できたがそのあとの状態はアナーキーだ。

4:マスコミも政治も分裂状態になりアナーキーな状態に陥っている。

 こうしたムバーラク擁護論が出てくるということは、ムスリム同胞団の権力掌握に対する、不安や国内経済がムバーラク時代よりも、悪化していることに起因しているのではないか。

 いまさら、ムバーラク氏が無罪になるとは思わないが、相当軽い判決が出ることもありうるのではないか、と思える昨今のエジプト事情だ。