「エジプトは危険・観光は自粛した方がいい」

2012年1月28日

 

 エジプト革命から1年が過ぎ、選挙の結果を踏まえ、一応民主的な政府も出来上がり、やがて大統領も登場するだろう。関係者たちは、エジプトは順調に回復に向かっている、と言いたいところであろう。

 しかし、40年以上アラブを見続け、年に何度もエジプトを訪問している私に言わせると、エジプトの現状は、全く安全にはなっていない。各国のブログを見ていると、大半がエジプトの不安定を指摘し、第二革命、第三革命が起こる危険がある、と指摘しているのだ。

 しかし、エジプトにしてみれば、一大外貨収入源である観光産業が、回復してくれないのでは、庶民の生活は苦しさを増し、その不満が再度の大衆蜂起を、生み出すことに繋がる。もちろん、観光産業が回復したからといって、エジプトが安定化に向かう、ということは無い。

 エジプトが抱える、不安定と危険の原因は、おおよそ次のようなものであろう。

1:革命の成果は世俗派の手には渡らず、イスラム原理主義者の手に渡った。

2:イスラム原理主義者の政府はイスラム法(シャリーア)を、段階的に拡大していくだろう。

3:旧官僚はそのまま権力の座にあり、これを打倒したい、と世俗派は考えている。

4:軍は相変わらず特権を維持しており、イスラム原理主義者側は軍との連帯を、強固にしたいと思っている。

5:軍は世俗的な組織であり、イスラム原理主義勢力とは、水と油の関係にあり、やがては衝突しよう。

6:観光以外の外貨収入源は、出稼ぎ送金、スエズ運河通過料、外国援助、シナイ半島のガス輸出などだが、主な出稼ぎ先のリビアは、いまだに不安定な状況にあり、エジプト人出稼ぎ者が自由に入り込んで、仕事ができ送金出来る状態には無い。(革命前エジプトからの出稼ぎ者は100万人を越えていた)

7:シナイのガスは、パイプ・ライン爆破テロが続いており、思うように輸出出来ていない。

8:世界の景気後退でスエズ運河の通過船は減少傾向にある。

9:企業が倒産し、失業率が上昇し、収入の無い人や減った人が相当数いる。

 挙げればキリが無いほど、エジプトはいまだに不安定であり、危険な状態にあるのだ。何時もはにこやかに対応してくれるエジプト人も、ちょっとしたことで爆発する性格を持っていることは、今回の革命劇を見ていれば分かることだ。

 エジプトが大好きで、年に34回も訪問していた友人は、エジプトのホスト・ファミリーから、危険だからまだ来ない方がいいと言われている。

 私のように情勢分析をする者は、そうも言っていられないが、普通の人は観光で行く時期ではない。

 私の場合は元軍の幹部が、空港内まで迎えに来てくれ、車でホテルまで送ってくれ、次の日からはボデー・ガードも兼ねた運転手が運転する車が、ホテルに迎えに来てくれるのだ。しかも友人は常に、安全を確認していてくれるから、安全な時間帯に安全な場所に行けるのだが、それでも『今日はあそこの辺には行くな!』とはっきり言われる。

 エジプト航空が4月15日から週二便、成田カイロを飛ぶことになったようだ。当然、エジプト側の要請と、日本の観光業者がドル箱ツアーを再開したいだろうから『エジプトは安全です』という観光旅行パンフレットが、間も無く印刷され、ばら撒かれるだろう。

 そこで、中東情勢分析を長い間やってきた、私から一言申し上げたい。『貴方はルクソール事件の再発の、犠牲者になりたいのですか!』観光は時期が来れば出来るようになるが、命は一つしかないのですよ。