エジプト革命から1年が過ぎ、選挙の結果を踏まえ、一応民主的な政府も出来上がり、やがて大統領も登場するだろう。関係者たちは、エジプトは順調に回復に向かっている、と言いたいところであろう。
しかし、40年以上アラブを見続け、年に何度もエジプトを訪問している私に言わせると、エジプトの現状は、全く安全にはなっていない。各国のブログを見ていると、大半がエジプトの不安定を指摘し、第二革命、第三革命が起こる危険がある、と指摘しているのだ。
しかし、エジプトにしてみれば、一大外貨収入源である観光産業が、回復してくれないのでは、庶民の生活は苦しさを増し、その不満が再度の大衆蜂起を、生み出すことに繋がる。もちろん、観光産業が回復したからといって、エジプトが安定化に向かう、ということは無い。
エジプトが抱える、不安定と危険の原因は、おおよそ次のようなものであろう。
1:革命の成果は世俗派の手には渡らず、イスラム原理主義者の手に渡った。
2:イスラム原理主義者の政府はイスラム法(シャリーア)を、段階的に拡大していくだろう。
3:旧官僚はそのまま権力の座にあり、これを打倒したい、と世俗派は考えている。
4:軍は相変わらず特権を維持しており、イスラム原理主義者側は軍との連帯を、強固にしたいと思っている。
5:軍は世俗的な組織であり、イスラム原理主義勢力とは、水と油の関係にあり、やがては衝突しよう。
6:観光以外の外貨収入源は、出稼ぎ送金、スエズ運河通過料、外国援助、シナイ半島のガス輸出などだが、主な出稼ぎ先のリビアは、いまだに不安定な状況にあり、エジプト人出稼ぎ者が自由に入り込んで、仕事ができ送金出来る状態には無い。(革命前エジプトからの出稼ぎ者は100万人を越えていた)。
7:シナイのガスは、パイプ・ライン爆破テロが続いており、思うように輸出出来ていない。
8:世界の景気後退でスエズ運河の通過船は減少傾向にある。
9:企業が倒産し、失業率が上昇し、収入の無い人や減った人が相当数いる。
挙げればキリが無いほど、エジプトはいまだに不安定であり、危険な状態にあるのだ。何時もはにこやかに対応してくれるエジプト人も、ちょっとしたことで爆発する性格を持っていることは、今回の革命劇を見ていれば分かることだ。
エジプトが大好きで、年に3~4回も訪問していた友人は、エジプトのホスト・ファミリーから、危険だからまだ来ない方がいいと言われている。
私のように情勢分析をする者は、そうも言っていられないが、普通の人は観光で行く時期ではない。
私の場合は元軍の幹部が、空港内まで迎えに来てくれ、車でホテルまで送ってくれ、次の日からはボデー・ガードも兼ねた運転手が運転する車が、ホテルに迎えに来てくれるのだ。しかも友人は常に、安全を確認していてくれるから、安全な時間帯に安全な場所に行けるのだが、それでも『今日はあそこの辺には行くな!』とはっきり言われる。
エジプト航空が4月15日から週二便、成田カイロを飛ぶことになったようだ。当然、エジプト側の要請と、日本の観光業者がドル箱ツアーを再開したいだろうから『エジプトは安全です』という観光旅行パンフレットが、間も無く印刷され、ばら撒かれるだろう。
そこで、中東情勢分析を長い間やってきた、私から一言申し上げたい。『貴方はルクソール事件の再発の、犠牲者になりたいのですか!』観光は時期が来れば出来るようになるが、命は一つしかないのですよ。