エジプトで革命が始まった時、多くの若い女性が、この革命に参加していた。彼女らはインターネットで革命を呼びかけ、ツイッターやフェイスブックを通じて、自由を勝ち取ろうと叫んでいた。
1月25日革命から、そろそろ1年の時が過ぎようとしているが、いま彼女たちが置かれている立場は、どう変わったのであろうか。自由が拡大したのか、それともその逆なのか。
どうも私が受けている情報によると、エジプトの女性の立場は、革命以前よりも、息苦しいものになっているようだ。スカーフをかむることが、社会的に義務付けられる雰囲気が、広がってきているようだ。革命の前数年間、エジプトでは若い女性が、スカーフをかむるのが流行っていた。
それは女性が持つ特有の、本能的な自己防衛によるものではないのか、と当時書いた記憶がある。そしていま、それが現実になっているのだ。ある女性はスカーフをかむらないと、職場に出難い環境になっていると語り、夜のプライベートな時間には、スカーフをかむらないで外出するという、二重生活を送っていると語っている。
これではエジプト社会がサウジアラビアと同じに、なっていくのではないかという不安が、エジプト人女性の間で広がっているようだ。サウジアラビアではムタッワーと呼ばれる風紀警察が存在し、彼らは身体を隠さない女性を棍棒で殴りつけ、家族以外の男女を引き離し、アルコールを禁止し、礼拝を強要しているのだ。
この風紀警察はエジプトには、まだ正式には誕生していないが、一部のグループのメンバーが、それと似た活動を始めているということだ。ムスリム同胞団の自由公正党と、サラフィ組織のヌール党が、それぞれ40パーセント以上、20パーセント以上の票を確保した選挙後、この動きは益々活発になっているようだ。
こうしたイスラム原理主義の動きに、一番痛手を受けるのは観光業者であろう。外国人観光客に対しても、同じようなイスラム教の戒律の遵守を求められたのでは、外国からの観光客数は激減するものと思われる。既に観光業者による反対デモが起こっているが、改善の兆しは見られない。
そこで頼みの綱は、イスラム学の世界的権威である、アズハル大学の学者たちの発出する見解であろうが、彼らも基本的にはイスラム法遵守を、希望している人たちであり、目に見えた改善のための発言を、することは期待できまい。
自由を求めた革命が、いま逆の結果を、エジプト社会に生み出しているということだ。この流れを変えるには、エジプトへの観光旅行を世界中の女性が揃って、ボイコットするしかないのではないか。それですら、イスラム原理主義者たちには、何の痛痒も与えないかもしれないが。