いまアラブのスンニー派世界で、カルダーウイ師の知名度が異常に上がっているようだ。ナセル時代にエジプトが進めた、ムスリム同胞団に対する弾圧を逃れ、国外に移り住み、50年後の昨年、エジプト革命の成功と時を合わせて、帰国した人物だ。
彼のスンニー派のなかでの学術レベルが高く評価され、世界のイスラム学者を集める組織のトップに、君臨している人物だ。彼が一部の日本人たちから認知されるようになったのは、9・11事件後の彼の発言によろうが、いまだにあまり一般的には知られていない。日本がイスラム国ではないのだから、無理も無いことかもしれない。
しかし、彼の行動を見ていると、どうしても胡散臭さが先走るのは、私の彼に対する偏見であろうか。エジプトの世俗的若者が起こした革命の成果を、最終段階で取り上げ、あたかも彼と彼の所属するムスリム同胞団が、革命を成功させたかのイメージを、ばら撒いたからだ。
それだけならまだ許せるのだが、彼は革命後のリビアを訪問し、イスラムの何たるか、革命の何たるかを説法しているのだ。少なくとも、この段階ではカルダーウイ師がエジプトだけではなく、リビアにおいても最高のイスラム権威者として、振舞っているということだ。
続いて、パレスチナのハマースの代表団がカイロを訪問した折、にエジプトのムスリム代表団が会っている。述べるまでも無く、ハマースはムスリム同胞団の下部機関であり、ガザのムスリム同胞団はエジプトのムスリム同胞団の、下部組織のようなものだ。
最近になって、カルダーウイ師はシリアの革命に関して発言を行っている。それによれば『シリアの軍人は国軍から離脱した自由軍に加わるべきだ。』と語っているのだ。つまり、簡単に言ってしまえば、アサド政権を打倒しろということなのだ。そのシリアの、最大で最強の反政府組織は、ムスリム同胞団なのだ。
カルダーウイ師の発言は、シリアだけの問題に留まるまい。いまヨルダンで起こっている反政府のデモは、中心にムスリム同胞団がいるのだ。このムスリム同胞団もやがては、ヨルダン王制の打倒に動くことになるのではないか。
カルダーウイ師のスポンサーはカタールであろう。カタールはガスの輸出によって得られる巨額の収入の一部を、カルダーウイ師が先導するムスリム同胞団に提供することによって、アラブ世界全体での革命を、煽っていくのではないか。
その目的は何かということになるが、それはアラブ各国の体制を、行き詰らせることにあるのではないか。その結果、アラブ諸国は混沌とした状況が長期化し、疲弊していくことになろう。そのような状況はどの国を、利することになるのか。おおよその見当が付こう。
カルダーウイ師の言動は、あたかもイスラムの正義のように見えながら、実は敵を利する行為ではないのか。