最近、イラクのマリキー首相が、故サダムフセイン大統領と同じような、独裁者の道を歩み始めている、とアラブのマスコミで批判され始めている。その際たるものは、ハーシミ副大統領を逮捕しようとしたことにあるだろう。
逮捕の理由はよくある、汚職容疑やテロ工作容疑なのだが、ハーシミ副大統領がスンニー派の出身であることから、にわかにアメリカ軍イラク撤退後の、イラク国内における宗派間闘争を、マリキー首相はあえて煽っているのではないか、という憶測が飛びだしているのだ。
マリキー首相は最近まで、アメリカのイエスマンとして動いてきたわけだが、アメリカ軍が撤退した後、彼の身の安全を守ってくれるのは、イランとその一派だと考え始めているのかも知れない。
マリキー首相の最大の援護者は、イラクのシーア派を代表するサドル師だが、同氏はイランと深い関係にある人物だ。彼は時折強い調子で語り、イラク社会に少なからぬ衝撃を与えている。最近も、イラク国内の混乱に対し、選挙をやり直すべきだと強調しているし、それ以前には、アメリカ軍は完全撤退するべきだ、とも主張していた。
アメリカ軍がイラクから撤退すれば、イラクに対するイランの影響力が強くなることは、自明の理であろう。イランはもちろん、アメリカ軍がイラクから撤退した後は、然るべき影響力を及ぼすことを考えていよう。
そうなると、イランを中心とするシーア派ムスリムの動きが活発になり、現在、反体制運動が起こっているバハレーンや、サウジアラビアのアルカテイーフのシーア派の反政府運動は、激しさを増していくものと思われる。
マリキー首相は現状から判断し、イラン寄りにシフトしていく方が、得策と考え始めているのかも知れない。そう考えるのは私だけではあるまい。イラクのスンニー派国民は、このまま行けばイラクはイランの支配下に入り、身動きが取れなくなると考えよう。
同時にそれは、サウジアラビアにとっても、極めて危険な兆候であろう。述べるまでも無く、バハレーンはサウジアラビアにとって、自国領土の一部のようなものであり、日本で言う出島のような役割を果たしている。
そのバハレーンが一層不安定になり、加えて自国領土のなかのアルカテイーフが、混乱の度を増すとすれば、サウジアラビアはイラク国内の変化を、放置するわけには行くまい。つまり、イラク国内でスンニー派が、一定の力を維持できることは、サウジアラビアに対するシーア派の脅威を、押さえる上で重要なことなのだ。
そこでサウジアラビアはアメリカに代わって、イラク内政に手を出し始めているのではないか。かつてCIAの手先と言われ、イラクの首相職を務めたことのあるアッラーウイ氏が、最近活発な動きを見せている。彼はシーア派ではあるが、彼の支持者はスンニー派の人たちなのだ。もちろん、彼はサウジアラビア政府との間に、太いパイプがあることは述べるまでも無い。
状況がそうであるとすれば、今後、イラクはほとんどの中東専門家が予測しているように、内乱状態に突入していく可能性が、高いと考えるべきであろう。マリキー首相はそうした状況を判断し、あえてシーア派とスンニー派の対立を煽る行動に出、自身の安全を確保しようと、しているのかも知れない。
権力を手にした者は、その座に出来るだけ長く、留まりたいと思うのは世の常だ。それは権力欲のなせる業であると同時に、自身の延命(命を守る)のための行動でもあるのだ。
『マリキーよお前もか、、、、サダムフセインの道を歩むのは。』