「これは何だ・アラブのユダヤ人へのラブコール」

2011年12月23日

 

 リビアで革命勢力がカダフィ大佐を暗殺し、革命が成功すると、リビアの代表者であるアブドッジャリール氏は、元リビアに居住していたユダヤ人に、帰って来て欲しいと呼びかけていた。彼だけではなく、彼以外のリビアの要人も、ユダヤ人の国際的なネットワークを、ぜひリビアのために生かして欲しい、と訴えていた。

 リビアに次いで、革命に成功したチュニジアの政府要人からも、同じように元チュニジアに居住していたユダヤ人に、帰国して欲しいと呼びかけがあった。これは単なる個人的な意見ではなく、革命によって誕生した、リビアやチュニジア政府の本音のようだ。

 つい先日、チュニジアの大統領就任したモンセル・マルズーク氏は、チュニジアの最高ラビ(ユダヤ教の指導者)と対談し、チュニジアにいるユダヤ人は、完全な市民権を持つに至ったことを伝えている。

 そのことに加え、モンセル・マルズーク大統領は、元チュニジアに居住していたユダヤ人に、帰国してきて欲しいと呼びかけている。

 現在チュニジアには、1500人のユダヤ人が居住しているが、1960年代には10万人のユダヤ人が、チュニジアに居住していたということだ。それが大幅に減少したのは述べるまでも無い、1967年に起こった第三次中東戦争の結果だった。

 アラブがイスラエルとの戦争に敗れ、アラブ人の恨みはイスラエルばかりではなく、ユダヤ人全体に向けられたのだ。身の安全を恐れたユダヤ人の多くが,この戦争を機にイスラエルに、移住していくこととなったのだ。

 それはチュニジアばかりでは無く、リビアでもエジプトでも、イラクでも同じだった。ほとんどのアラブの国々から、ユダヤ人たちが身の安全を考え、イスラエルに出国して行った。当時のアラブ人たちは、それを歓迎していたのだ。

 その後、アラブから移住したユダヤ人たちが、イスラエル国内にあって反アラブ感情をむき出しにすることが、アラブ・イスラエル対立の原因だと考え、リビアのカダフィ大佐は出国したユダヤ人に、帰国するよう勧めていた。それ無しには、パレスチナ問題は解決できない、とも語っていた。

 アラブの春の革命に成功した国々が、いまユダヤ人の帰国を呼びかけているのには、自国の経済発展にユダヤ人の国際的なネットワークと、知恵が必要だということもあろう。

 加えて、イスラエルの将来が危険なものに、なってきていることもあるのではないか。そうしたなかで、ユダヤ人のなかのセファルデイ(東洋系ユダヤ人)を、アラブ諸国は受け入れることによって、新たな危険を避けようとしているのではないか。

 ユダヤ人にはご存知の通り二種類ある。ハザール王国崩壊後ロシアやヨーロッパに渡っていったユダヤ人(アシケナージ)と、アラブやアジア諸国に居住していたユダヤ人(セファルデイ)だ。

 アラブ人はセファルデイを正統ユダヤ人と認めていることも、この変化の根底にはあるのではないか。イスラエルの将来、パレスチナ問題、自国の経済発展と、種々の要素が含まれての現象であろう。このことは、今後も注視するに値しそうだ。