『アラブの春』革命は共和国だけであり、しかも、経済的に苦しい状況の国だけで起こっているような、錯覚を持つ日本人が多いだろう。しかし、リビアの例を見れば分かるように、経済的に余裕のある産油国でも、起こっている。
王制の国でも以前から不安な動きが、見え隠れしている。バハレーンはその先駆けであり、ヨルダンでも反体制運動の動きが起こり始めている。加えて、サウジアラビア国内にも不安定化する、多くの社会的問題が存在しており、国民の一部が政府に対する、抗議行動を起こしている。
クウエイトでもどうやら、そうした政府に対する抗議行動が、顕在化しつつあるようだ。クウエイトでは首相の金銭がらみのスキャンダルに対し、国民の一部が怒りだし、議会に乱入して首相の退陣を求める、というデモが起こった。
過去にもこの首相に対する批判が、何度も出ているが、シェイク・ナースル・サバーハ首相(71歳)は首相職に留まるために、国会の有力議員たちに、金をばら撒いたというのだ。その対象議員は50人の国会議員のうちの16人で、配布した金額は3・5億ドルにものぼるということだ。
それ以外にも、シェイク・ナースル・サバーハ首相については、国庫から巨額な資金を、自分の口座に移している、という疑惑も持たれている。
元々、クウエイトは産油国で、湾岸諸国のなかにあっても、最も豊かな国の一つであり、その金額は彼ら権力者たちからすれば、さほど大きな問題では無いのかも知れない。問題はこの議会乱入デモに対する、シェイク・ナースル・サバーハ首相の反応の方だ。
シェイク・ナースル・サバーハ首相はデモが起こった後、内務省に対し徹底的な取締りを、命令している。結果的に、今後、この手のデモは軍や治安部隊によって、厳しく取り締まられることになるということだ。
数千人が参加した今回のデモのなかでも、5人が負傷しているが、今後、デモが継続して行われれば、取締りが一層厳しくなることから、より多くの負傷者が出てくることになろう。そして不運にして、死者が出るようなことになれば、事態は急激に悪化していくことも考えられよう。
クウエイトはバハレーンと同じように、権力側のスンニー派と対抗する、シーア派国民や、国籍を与えられないままに放置されている、ビドーンの占める割合が、総人口に対して高いのだ。
つまり、シェイク・ナースル・サバーハ首相が感情的に、厳重なデモ対策を実行すれば、クウエイト社会は一気に暴発に向かう、可能性があるということだ。いまクウエイトにとって最も大事なことは、冷静なデモに対する対応ではないのか。