毎日結構な量の資料を読んでいるが、その中でアレッと思うものを見つけるときがある。それは自分が考えていることと同じ趣旨のものに出会ったり、自分が全く考えてもみなかったものに、出会ったときだ。
リビアが今後どうなっていくのか、ということを考えると、物事がどうも欧米の意向通りには、動いていないのではないか、と思えてならない。欧米は革命後のリビアが、一日も早く安定し、復興に着手できることを望んでいる、と考えるのが順当であろう。
しかし、リビアは複雑な構成によって、成立している社会であり、革命達成後だからといって、スンナリ新政府が権力を行使し、復興事業を進めて行けるとは思えない。多分に、各部族や政治集団宗教集団が、自派の権力を拡大しよう、権益を確保しようと競うであろう。
そうなると欧米にとって一番いいのは、自軍をリビアに派遣し、自分たちの手で、安定を確保することであろう。そのためには、リビア政府が欧米軍の派遣を望むような状況を、作っていくことであろう。
革命がほぼ達成された頃、イギリスとフランスはリビアに対し、国連軍を入れることを助言したようだが、この時点では、ムスタファ・アブドッジャリール代表は『イスラム軍またはアラブ軍以外は入れたくない。』と応えたといわれている。
つまり、イギリスとフランスの思惑は、外れたということだ。両国は国連軍の傘の下に自軍を派遣し、権益の確保を考えたのであろう。同じようなことが、アメリカとリビアとの間にも、あったと聞いている。アメリカもまたリビアに自軍を派兵することを、リビア側に打診したようだが、成功しなかったようだ。
しかし、時間の経過と共に、ムスタファ・アブドッジャリール代表は欧米軍の存在が、保険になると考えたのではないか。つまりNATO軍がリビアに駐留してくれれば、リビアの各派が本格的な戦闘を始めることはないし、彼自身の身の安全も確保できる、と考えたのであろう。
その後、ムスタファ・アブドッジャリール氏はNATOに対し、今年一杯の駐留を要請したが断られたようだ。そのことはNATOの代表が、リビアを訪問した折に明らかになっている。
では欧米はこのままリビアに対する、関与をやめるのだろうか。毎日目を通している外国の記事や論文の中に、実はある西側の中東専門家が書いた小論文を見つけた。その論文の中に私の疑問に対する、答えがあったと思った。
その論文はリビア社会が、極めて複雑であることを指摘している。主要部族の名前を上げ、地域の特性を指摘し、イスラム原理主義者の名前を上げ、世俗派というか一般の革命に参加した人たちの、意見を取り上げながら、リビアはこのままでは極めて危険な状態に、向かっていくと結論付けている。
彼の予想では、リビアはこれから第二革命とも、国内大混乱とも言える状態に、突入していくだろうというのだ。それではそれを欧米は座視するのか、というとそうではあるまい。
リビアがいま向かっている大混乱、危機からリビアを救う用意があることをムスタファ・アブドッジャリール氏に伝え、リビア各派との間で、欧米軍の受け入れ合意を、生み出させるのではないか。
リビア国民の大半がそのように考える方向に、マスコミなどを使いながら、リードして行くではないか。既にこの小論文がその一役を担っているのではないかと思えた。
小論文は、イスラム原理主義者が権力を掌握することの危険さを、リビア国民に明確に指摘している。欧米のマスコミ関係者は、彼の小論文を参考に、リビア取材と報道をしていくのではないか。そこからは大惨劇大流血の危険性が再度取り上げられよう。
リビア革命の発端では『カダフィ大佐が6000人のリビア人を殺す。』というリビア人の訴えが、国連に介入の決意をさせているのだから。それを大きく報じたのは、言うまでも無いマスコミだった。そして、それが世界的にリビアに対するNATO軍の介入を、容認させているのだから。