アラブの春による革命達成から、エジプトはもう9ヶ月が経過した。その時間の経過が、エジプト国民に革命勝利の美酒による二日酔いという、厳しい現実を突きつけているようだ。
大分前に既に報告したが、エジプト国内では失業率が上がり、物価は上がり、庶民の生活は苦しくなっている。政府の報告によれば、昨年は9パーセントだった失業率が、今年は12パーセントに達しているということだ。
この数字はあくまでも、いわゆる政府による公式発表であり、現実は多分この数値の倍であろう。つまり、実質の失業率は20パーセントを、超えているものと思われる。
同じように、経済の成長率ももっと下がっている、というのが現実ではないか。観光業はエジプトの主力の産業だが、外国からの観光客が昨年の、ほぼ半分にまで落ち込んだというのは嘘で、20~30パーセントぐらいまで落ち込んでいるのではないか。カイロのホテルの泊まってみると、がら空き状態であることが分かる。
観光業は農民には野菜や果物の市場を作り、子供には土産用のビーズのネックレスを作る仕事を与え、大人たちは水タバコのサービス、タクシーの運転手から観光ガイド、と極めて裾野の広い産業なのだ。それが干上がるということは、エジプト人にとっては、まさにナイルの水が涸れるようなものだ。
あるエジプト国民は『革命は感動と興奮を与えてくれたが、いまは現実の苦しさのなかであえいでいるよ。』と語り、それでもある者は『エジプトの革命が成功するまでは、ナツメヤシと水だけでしのいでもいい。』と語る。
ナツメヤシと水というのは、イスラム教の預言者ムハンマドが一番苦しかった時期に、それだけで耐え偲んだことを真似た言葉であろう。しかし、そう考えるエジプト人は少ない。この言葉に対し『お前がそうしたければ、勝手に自分だけ耐え偲べ。』と悪態をついている人が多いのではないか。
観光業以外のエジプトの外貨収入源は、スエズ運河の通過料とシナイ半島のガス石油生産、そして出稼ぎ者からの海外送金だが、これらは前年よりも増えている、とエジプト政府は発表している。
国内の経済が悪化の一途をたどるなかで、経済とは異なる政治の世界は、過熱気味だ。11月末に始まる議員選挙に向け、選挙戦は既にスタートしているが、498議席に対し55の政党から6600人が、立候補しているということだ。
大統領選挙については、大方の予想ではタンターウイ国防大臣の就任だ。それは軍の幹部の希望なのだ。それは1953年の革命以来、ナギーブ、ナセル、サダト、ムバーラクと4人の軍人が就任してきたからだ。
タンターウイ氏自身は高齢であることを理由に、大統領就任を希望していないが、軍幹部は当然のことながら、現在国防大臣のタンターウイ氏が、第5代大統領に、就任することを望んでいるのだ。
従って軍幹部の意向から、大統領選挙は行われるとしても、相当遅れるのではないか、といのうがもっぱらの予想だ。それ以外には、エジプト内政の落ち着きようが、無いのかもしれない。