シリアでは反政府運動が、既に数ヶ月も続いているが、これまでに犠牲になったシリア人の数は、3500人以上と報告されている。そのなかには、反政府側の人たちに加え、婦女子供が含まれていることは、言うまでもない。
加えて、政府側の軍人や警察にも、相当数の死傷者が出ているものと思われる。それは、シリアの反政府運動が、遂に内戦の一歩手前まで来ており、反政府側の手には、大量の武器が渡ってるからだ。
正直なところ、政府側の軍人や警察も、もうこれ以上は国民を殺したくない、という心境であろう。だからこそ軍から離脱し、反政府に回る軍人が、増えてきているのだ。
アラブ連盟がシリアに対し、メンバー資格を止め、代表団を送り込んで事態を調査する、という動きになっているのも、そうしたシリア国内の悲惨な、事情からであろう。
ここにきて、意外な動きが出てきた。それは、バッシャール・アサド大統領の叔父にあたるリファアト・アサド氏が、『バッシャール・アサド大統領は早急に辞任すべきだ。』と言い出したことだ。
しかし、彼は大統領職から辞任しても、『バッシャール・アサド大統領はシリア国内に留まれるようにすべきだ。』とも語っている。彼に言わせれば『現在シリア国内で起こっている悲惨な状況は、バッシャール・アサド大統領には責任の無いことであり、歴史的な産物だ。』と言うのだ。
バッシャール・アサド大統領がスムーズに辞任し、安全にシリア国内で生活出来るようになるためには、反体制派が一体にならなければならない、ともリファアト・アサド氏は語っている。
つまり、反体制側が連帯し、一定のルールを維持できるようになれば、バッシャール・アサド大統領が辞任しても、彼の生命の保証がなされるということであろう。そうなれば、バッシャール・アサド大統領も安心して、権力を手放すことができるということだ。
リファアト・アサド氏は故ハーフェズ・アサド大統領の弟であり、1982年にハマ市で起こった暴動では、2万人以上の住民を殺害した、責任者だといわれている人物だ。
彼はまた、ハーフェズ・アサド大統領の後継候補でもあり、バッシャール・アサド大統領のライバルでもあった人物だ。彼は『現在、シリアの反体制の人たちは政府との対話を拒否しており、いかなる提案も問題解決には至らない。』という判断に立っているようだ。
加えて、長期化するシリアの体制と、反体制側との武力衝突の結果、多くの軍人がデモ対策に、嫌気が差してきていることを、リファアト・アサド氏は指摘している。そのことは、突然、バッシャール・アサド大統領に忠実な、シリア軍の軍人の銃口が、バッシャール・アサド大統領に向けられる時が来るという、可能性を予測しての発言であろう。
リファアト・アサド氏は現在、イギリスのロンドンで亡命生活を送っているが、いまだに、シリア軍の幹部との緊密な関係を、維持していることから、彼には多くの軍内部の情報が、もたらされているものと思われる。したがって、この段階で彼が口にした言葉には、大きな意味が含まれていよう。