「エルドアン首相の意識がトルコの可能性を左右する」

2011年10月17日

 

 今中東で一番人気のある政治家といえば、トルコのエルドアン首相だ。彼に並ぶ支持の高い政治家は、アラブ諸国にもイランにも、イスラエルにもいない。

 つまり、トルコのエルドアン首相は中東諸国全てで、一番人気があり最も高い支持率を有する、政治家ということだ。これはイスラエル国民に取っても、案外同じかもしれない。つまり、イスラエル国内ではエルドアン首相への支持率がどうかは、調査しないだろうが、比較的高いと思われる。

 それはイスラエルの政界にはいま、イスラエル国民が安心して政治を委ねられる、人物がいないからだ。イスラエル国民はエルドアン首相の辛口な、イスラエル批判を耳にしながら、案外『それは妥当な考えだ。』と思っているのではないか。

 この絶対的人気を誇る、エルドアン首相の主導の下に、トルコはいま経済的に独走態勢ともいえる、絶好調期にある。それをうらやむヨーロッパ諸国には、最近種々の反応が生まれている。

 フランスのサルコジ大統領は、トルコのエルドアン首相に猛烈に嫉妬をしながらも、他方ではトルコとの経済協力促進を希望している。協力希望分野は、農業、観光,その他多岐に渡るのだ。

 ギリシャも犬猿の仲であるはずのトルコに、自国企業の買収を依頼したほどだし、ドイツはトルコ人移住者問題を抱えているが、EUのトルコ対応が間違っている、と言い出している。つまり、トルコをこれまでEUのメンバーにすることを、拒否してきたヨーロッパの国々が、ここに来てトルコに擦り寄っているということだ。

 しかし、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの、エルドアン政権にも不安が、無いわけではない。最近になって、トルコのエルドアン首相支持派の間から、彼は贅沢になってきた、という陰口がささやかれ始めている。

 その発端は、エルドアン首相の奥さんのかばんと、彼の腕時計のようだ。トルコは贈り物をすることが、善行とされるイスラムの習慣の国、金持ちの友人が送ったものと思われるのだが。

 このことが発端で、支持者内部から批判の声が、大きくなっていくようになると、エルドアン首相の人気に、かげりが出てくるだろう、という懸念がある。そこで大事なことは、エルドアン首相が時と場所を、わきまえることであろう。

 同時に支持者たちが、あまりエルドアン首相の身の周りのことを、とやかく言わないことであろう。

 私がトルコを訪問した10月7日、エルドアン首相のご母堂が、83歳で死去した。78日と葬儀の特別礼拝(ジャナーザ)が行われ、8日の夜は通常夜の礼拝(サラートルイシャー)とコーランの読誦会が、イスタンブールのボスポラス海峡を挟んだ対岸の、ウシュクダルのモスクで行われた。

 私も礼拝に参加したのだが、そこで驚いたのは、エルドアン首相も数十人のイマームたちが読誦する中に入って、自分でコーランを読誦したのだ。そのうまさは、他のイマームたちに、引けをとるものではなかった。

 当然であろう。彼は若い時代、イスラムの学校ハテプ・スクールで学んでいるのだから、コーラン読誦はお手のものなのだ。この会の終わりに、エルドアン首相は参加者たちと握手を交わし、謝意を示したが、私も彼に『いいことをしましたね。』とコーランを母親のために読んだことを褒めた。彼の返事は『いいことになりますようアッラーに祈ります。』というものだった。

 エルドアン首相の母親の死が、彼に忘れかけていた(?)謙虚な政治家の道を、歩ませることになるのではないか、という気がした。是非ともそうあって欲しいものだ。