エジプトはナセルの革命以来、共和国体制を採って、すでに60年ほどの時間が経過したが、その間、大統領職を務めたの、は軍人出身者ばかりであった。初代のナセルがそうであり、サダトがそうであり、ムバーラクも軍人上がりだった。
このため、今回も大衆蜂起が革命になり、最終的に軍事クーデターとなると、軍が最高権力の座に就いた。結果的に、現在のエジプトを支配しているのは、軍最高評議会であり、その長たる国防大臣が実質のナンバー・ワン、つまり大統領職にある、と言ってもいいだろう。
こうした状態が続くと、世間ではタンターウイ国防大臣が大統領に就任するのではないか、という推測が出始める.しかし、すでに書いたと思うが、タンターウイ国防大臣は大統領職に就くことを、望んでいない。
彼が一番望んでいるのは、軍が政府からは独立した形で、絶対的な権力を有し、大統領の権限外にあることだ。そして、エジプトと国民に必要な状態が発生したときには、何時でも自由に動ける立場にいたいようだ。
今回、タンターウイ国防相が、軍からは大統領候補を出さない、と言ったのは、政治的な嘘言ではないと思われる。エジプトの軍はすでに書いたかもしれないが、巨大な自己完結型の組織であり、莫大な資金を持っている、コングロマリットのような存在なのだ。
今回、タンターウイ国防大臣が大統領に就任するのではないか、という推測が流れた裏には、彼が軍服ではなく、背広姿で大衆の間に入っていったからだ、と見られている。つまり、軍人としてのイメージから、政治家のイメージに変わろうということが、背広姿での大衆との接触だったのではないのか、ということだ。
しかし、タンターウイ国防大臣は『自分は40年間国防に尽くしてきた人間であり、軍人としてその役を終えたい。正直者と戦う者として人生を貫きたい。』といった発言をしている。
ただし、彼は『私が約束したことを実現するまでは、その役割を続ける。』とも語っている。