AFP通信社が最近、トルコ政府がシリア政府に対して、ムスリム同胞団を議員として受け入れるのであれば、トルコはシリアに協力する、と語ったと報じた。AFPはその情報源は西側の外交官だと明かしている。
しかし、トルコ政府の大統領アドバイザーである、アルシェト・ホルモズロ氏は、これを全面的に否定している。彼は『シリア国内政治について、トルコは口を挟むつもりは無い、あくまでもシリア国民と、政府が話し合って決めることだ。』とトルコ政府の立場を明らかにし、AFPが流した情報を否定している。
シリアのムスリム同胞団の実力は、以前から知られているし、今回の反政府運動の動きのなかでも、大きな指導力を発揮しているものと思われる。ムスリム同胞団は政府に対し、明確な敵対的立場を、既に表明している。
それは1965年以来、ムスリム同報団がシリア国内で、非合法組織に認定されていることに合わせ、1982年のハマ市の反政府運動では、2万人のハマ市の住民が虐殺されている。その犠牲者の大半は、ムスリム同胞団員であったものと思われる。
ここに来て、シリアの国内安定のために、トルコ政府がムスリム同胞団を、シリア国家の政策決定機構の中に、受け入れるように説得しても、それはシリア政府にとっても、ムスリム同報団側にとっても、受け入れられることではあるまい。
西側外交官がこうした発言をしたのであれば、それにはある程度の説明が、出来そうだ。トルコ政府与党AKPは、イスラム穏健派政党として、西側諸国から認識されている。アラブの春革命の中で、欧米諸国はムスリム同胞団を、受け入れ可能なイスラム原理主義組織、と判断している節がある。
ムスリム同胞団を活用して、革命後のアラブ諸国の安定を、実現したいと考えているのかもしれない。アメリカ政府は今回のアラブの春革命が、始まる数年前から、エジプトのムスリム同胞団と、連絡を取ってきたことは、公然の秘密となっている。
西側外交官は、トルコのAKP政権であれば、シリアのムスリム同胞団を説得でき、かつバッシャール・アサド政権も説得が出来て、シリア政府とムスリム同胞団のマッチングが、可能だと考えたのではないか。
しかし、ムスリム同胞団という組織は、長い間、アラブ各国政府から厳しい弾圧を、受けてきた組織だけに、内部は堅固な組織であり、そう甘くは無い。もし、シリア政府がムスリム同胞団を、受け入れることになれば、早晩政権は打倒されることになろう。
そのことが分からない程、トルコは中東各国の、事情に通じていないわけではない。欧米諸国の何倍も、トルコは中東諸国の内情について、情報を集め、より正確な分析をしていよう。そのうえでトルコは、アラブにどう対応するのが一番いいのかを、考え行動してきている。西側諸国の思惑と、アドバルーンで動くような国ではない。