「何故欧米はアラブのイスラム化に協力するのか?」
『アラブの春』はその春が訪れた国を、イスラム保守主義(イスラム原理主義)の国に、変えて行く気配が濃厚だ。それはどうしてなのかという疑問を、多少中東事情に関心のある者なら、押しなべて抱くはずだ。
例えば、最初にアラブの春が起こったチュニジアの場合、もし今選挙を行えば、20パーセントの票が、イスラム原理主義のナハダ党に向かい、ナハダ党が画策すれば、それが30パーセントになる、と予測されている。つまり、ナハダ党はどう転んでも、第一党になるということだ。
次いで、アラブの春が訪れたエジプトでは、今の段階で選挙が行われれば、35パーセント程度の票が、ムスリム同胞団に投じられる、と予測されている。述べるまでも無く、この場合もイスラム原理主義の、ムスリム同胞団は第一党になるわけだ。
いま崩壊一歩手前で、苦戦しているシリアでも、バッシャール・アサド政権が打倒されれば、ムスリム同胞団が第一党になることは、間違いなかろう。シリアのムスリム同胞団は、厳しい弾圧を政府から受けていたために、地下にもぐっていたが、彼らの連帯は強固なものであり、いまだに健在だ。
ヨルダンでもムスリム同胞団は、最も組織化された政治団体であろう。実際に政府に対する抗議行動では、ムスリム同胞団は動かしがたい、存在となっている。
そこで沸いてくるのは、欧米諸国は『アラブ諸国の民主化を支援する』という立場で、アラブの大衆行動を支援しているが、その結果、アラブ諸国ではイスラム原理主義組織が、政治の潮流の主役になってきていることを、どう認識しているのであろうか、という疑問だ。
ある外人のイスラム教徒の友人と、そのことについて話し合ったが、彼の答えは『アラブ諸国を混乱させるためだ。』というものだった。革命は世俗主義者の若者たちによって始められたが、革命の果実を手にするのは、イスラム原理主義者たちだ。そうなれば当然の帰結として、世俗主義の若者層と、イスラム原理主義組織が衝突することになろう。それを欧米諸国は望んでいるのだ、というのが友人の出した結論だった。
しかし、この答えは理にかなっているようだが、必ずしもそうとは、言い切れないのではないか。欧米の誤算ということも、あるのではないのか、と思えるのだが。
もしこれが欧米の誤算だとすれば、今後も欧米の誤算が続き、結果的に手に負えない状態が、中東のイスラム諸国で、現実化するかも知れない。そのことを日本も、想定に入れておく必要が、あるのではないか。