アラブ社会は口コミの世界だ。嘘が本当になり、本当が嘘になるか否かは、どれだけその話題が語られ、広がり、人の支持を受けるかにかかっている。
今回エジプトを訪れた折に、一つの典型的な話題を、耳にしてきたので、ご紹介しよう。
友人が真顔で語ってくれたのは、次のような内容の話だった。『いまアラブ世界で広がっている「アラブの春革命」は、実は第四次中東戦争に深くかかわった、国々で起こっている。取りようによっては、イスラエルと欧米による、アラブ諸国に対する報復なのだ。
最初に「アラブの春革命「が起こったチュニジアは、第四次中東戦争の時に、エジプトに油を提供してくれた国だ。そして主役で戦ったのは、エジプトだった。そのエジプトに戦闘機を提供したのは、リビアだった。
イエメンは紅海の出口である、バーブ・ル・マンデブ海峡を封鎖してくれた。述べるまでもない、シリアはエジプトと並んで、共に戦った国なんだよ。だからこれらの国で、「アラブの春革命」が起こったんだ。仕掛けたのは誰かって?言うまでもないだろう、イスラエルとアメリカそれにイギリスだよ。』
そこで『あの時に絶大な効果があったのは、サウジアラビアとイランによる石油禁輸だったよね?それならアラブの春は、サウジアラビアでもイランでも、そのうち起こるのか?』
友人は真顔で『もちろんだ、時間が遅れるだけのことだよ。』
常識的には、今回アラブ世界で起こっている「アラブの春革命」が、第四次中東戦争の報復とは考え難い。しかし、アラブのインテリたちの間で、それが語られ、社会の底辺にまで広がっていくと、もう誰もそれを止めることはできまい。そして、噂が本当の話に変わり、それが社会的認識として、定着していくのだ。
アラブ世界では、日本人から見て、荒唐無稽の話としか言いようのない、このエピソードを、笑うわけにはいかない、怖さがあるのだ。