9月12日から13日にかけて、トルコのエルドアン首相が、エジプトを訪問した。エジプトの近隣国である、トルコの首相が同国を訪問することは、何等不思議ではないのだが、今回のエルドアン首相のエジプト訪問には、深い意味が隠されていたと思う。
まず、エルドアン首相のエジプト訪問に先立ち、トルコのアッサバー紙は、トルコとエジプトが、エルドアン首相のエジプト訪問時に、軍事同盟を結ぶ、という情報を流したのだ。(このアッサバー紙のオーナーはエルドアン首相と極めて近い友人なのだ。)これをエジプトのアルアハラーム紙(半官半民)が、早速転載して伝えている。
もうひとつは、エルドアン首相がエジプト訪問後、パレスチナのガザ地区を訪問する意向を、持っていることも報じられた。この二つの情報は結果的に、いずれも結実しなかった。
エルドアン首相が訪問の最後に、エジプトのイッサーム・シャラフ首相と共同で行った、記者会見のテレビ生放送を見ていても、14日付の各紙の報道を見ても、トルコとエジプトが軍事同盟を結んだ、というニュースは報じられなかった。
パレスチナのガザ地区訪問も、結果的には実行されなかった。エルドアン首相は出来るだけ早い時期に、ガザ地区を訪問したい、という意向については語っている。
普通に考えれば、トルコとイスラエルとの関係が、悪化している時期とはいえ、エジプトとの軍事同盟を締結することは、あまりにもイスラエルに対して刺激的だから、実施しなかったのだ。ガザ地区訪問もしかり、というところであろう。
しかし、私はこの二点について、全く違う解釈をした。まずエジプトとトルコとの軍事同盟については、タンターウイ国防大臣との間で話し合われ、ほぼ合意に至ったものと思われる。そうでなければ、エルドアン首相の訪問前に、わざわざイスラエルを刺激する情報のリークを、する必要はなかったはずだ。
共同記者会見の後で出てきたのは、戦略的検討委員会を結成するというものだった。このニュースには、経済協力が別途うたわれているところを見ると、戦略的協力の意味は、軍事的協力ということではないのか。
そして、ガザ訪問の中止については、イスラエルに対する配慮、という意味合いをうかがわせるが、実は軍事同盟のリークと合わせ、イスラエルに対して相当な、圧力となったものと思われる。
エルドアン首相はガザ訪問を断念したものの、他方では、イスラエル軍によるガザ攻撃を、国際司法裁判所に提訴すると言っているし、ガザの封鎖は正当ではないとも語り、一日も早い開放を訴えている。これはエジプトに対しても、向けられたものであろう。なぜならば、イスラエルがガザを封鎖していることは、エジプトの協力があってこそ、意味を成していたものだからだ。
エジプトはトルコとの間で、情報のリークを使い、トルコと同じように、イスラエルに対して、圧力をかけたのであろう。イスラエルにして見れば、中東の二大軍事大国である、トルコとエジプトが軍事同盟には至らないまでも、軍事面での協力関係を、拡大していくことは、危険極まりないことであろう。
エルドアン首相のエジプト訪問には、まさに、イスラエルの死活問題が罹っている、刺激的なものであったということだ。想像するにトルコやエジプトとの関係を、ここまで悪化させた原因である、リーベルマン外相の更迭が、このことによって早まるのではないか。
そして、その後任には、ツビ・リブニ元外相がおさまり、トルコ、エジプトとの和解の道を開く、努力をするのではないかと思われる。そうでもなければ、イスラエルは自滅の道を、歩み続けていくことにあるからだ。
世界がそうであるように、中東地域、そしてイスラエルは、大転換期を迎えているということであろう。その転換期のタイミングを逃した国には、破滅が待ち受けている、ということではないか。