リビア革命に勝利したことを世界に向けて発表し、世界の多くの国々からも、認められたリビア臨時政府(NTC)は、いま現実に直面することによって、問題が極めて複雑であり、大変なものであることに、気が付き始めていよう。
トリポリではカダフィ派の抵抗が、いまだに続いているが、リビア臨時政府とトリポリ市民にとって、問題なのはそれだけではない。実は人間が生きていく上で、一番大事な水の確保が、難しくなっているのだ。トリポリと周辺の住民は、自分で井戸を掘り、地下水を使おうとしたが、塩分が濃すぎてとても飲める代物ではないということを、いまさらながらに知らされた。
水が無いということは、水洗トイレが使えないし、風呂も入れないということだ。人間に最低限必要な水が手に入らず、いま外国から取り寄せている始末なのだ。しかし、それで風呂を沸かすことも、水洗トイレに使うことも、ありえまい。
加えて、農業用水が無くなったということであり、収穫量は激減しているだろう。特に暑い盛りの今の季節は、灌漑水無しには、野菜も果物も実るまい。そうなると、野菜や果物の値段が、高騰することになるのは、当然の帰結だ。実際にトリポリからは、野菜の価格の高騰が、伝えられている。
カダフィ大佐の時代は、トリポリも他の街も、水に困ることはなかった。それは、カダフィ大佐が建設したGMR (グレート・マン・メイド・リバー=人間が創った偉大な川)が、リビア南部地域の地下水を、巨大なヒューム管を敷設し、トリポリを始めとした、地中海沿岸部にまで引いていたからだ。
いまそのGMRの蛇口を握っているのは、カダフィ派の軍人たちなのだから、臨時政府にはどうにもならないのだ。しかも、南部地域は未だに、カダフィ派が抑えているのだ。
水の問題ばかりではない。電力の供給も同じように、いま問題となっている。電気技師は、カダフィ体制が実権を亡くした時から、活動していないのであろうか?それは電話でも同じであり、公共サービス全般に言えることだ。
もちろん、ゴミ処理もうまくいっておらず、いまやトリポリの街中は、ザンパイ物やごみであふれているだろう。これまでは周辺諸国からの出稼ぎ者が、このゴミ処理にあたっており、リビア人は担当していなかったのだ。
今回の内戦の中で、外国人、なかでも黒人はカダフィ大佐の傭兵と疑われ、虐待を受けているのだ。これではごみ処理などできるはずもあるまい。
加えて警察による治安維持も、ままならないのではないか。警察官はガソリンの入手や、食料の入手で多忙であり、犯罪者の取り締まりなど、している余裕はあるまい。
医療サービスもほとんど、止まっているものと思われる。医師の不足、医薬品の不足、医療機器の破損とメンテナンスの不能など、多くの不都合な状態が推測できる。
大衆は常に無責任であり、わがままであることを考えると、そのうち臨時政府に不満を言い始めるだろう。『カダフィ体制のほうがよかった。』その不満を言わせないためには、臨時政府が一日も早い公共サービスの体制を、確立することだろう。在外資産の確保や、外国からの援助獲得も重要だが、自身の手で問題を解決することを、考えることの方が優先されるべきであろう。
「リビアの新体制には難問山積・前途多難」
2011年9月 1日