「シナイ半島がイスラム国家になる危険」

2011年8月21日

 

 最近物騒なニュースが多い中東だか、その中でも最も危険と思われるニュースがある。それはエジプト領土のシナイ半島が、エジプトから分離独立して、イスラム国家になるという予測のニュースだ。

 こうした予測が出てくるには、それなりの根拠があるのだ。シナイ半島に住むベドウインの部族は、ムバーラク大統領の時代、ある種の秘密の合意が、あったのであろう。その秘密合意に基づいて、ベドウイン部族はガザに密輸をするうえで、自分たちで自主的に、制限を設けていたのであろう。

 同時に、シナイ半島に入ってくるよそ者に対しては、厳しい監視の目を、光らせていたものと思われる。ところが、ムバーラク大統領が失脚すると、エジプト政府とこのベドウイン部族との、秘密合意は立ち消えになり、ベドウイン部族側は何のメリットも、エジプト政府から受けなくなったのであろう。

 そうなると、それまで効いていた、彼らの監視が効かなくなり、よそ者が平気でシナイ半島に入り込め、しかも、自由に行動できるように、なったのであろう。そのため、大量の武器がガザに持ち込まれるようになった、ということであろう。

 その大量の武器の中身には、ピストルや機関銃ばかりではなく、ミサイルやロケット弾も含まれている。それが今、ガザからイスラエル領内に撃ち込まれている、ロケット弾であろう。しかも、このロケット弾はパレスチナ人の手製のものではなく、しかるべき国の武器工場で造られたものだ。

 したがって、今までの手製のものに比べ、飛距離も爆発力も、何十倍も威力がある、ということになる。現実にイスラエル南部の街に、撃ち込まれたロケット弾で、死傷者が出ているのだ。

 シナイ半島にいるテロリスト、あるいは原理主義者の数は、6000人程度と見られているが、数千人の諜報部員も、治安担当の軍人もいるのだ。それにもかかわらず、密輸の量と種類が増大し、テロが増えているということは、誰かが密輸やテロ活動を黙認するように、指示を出しているのではないか、という推測もなされている。

 確かに、ムバーラク体制が打倒された後、これまでに5回以上のガス・パイプライン爆破テロがあり、警察署が襲撃されて、今なお犯人が捕まっていない。ムバーラク時代には無かった、現象なのだ。

 そこで頭に浮かぶのは、エジプトでのムスリム同胞団の台頭ではないか。ムスリム同胞団は現在、エジプト国内政治において、最も強力な存在となっており、選挙前の今の段階でも政府に対し、強い影響力を発揮している。

 このムスリム同胞団は、穏健派といわれているが、実際には原理主義の最たるものなのだ。ガザのハマースはムスリム同胞団の別働隊として、結成された組織であることから、エジプトのムスリム同胞団が協力しても、何の不思議も無いのだ。

 エジプトのムスリム同胞団が、エジプト国内で政治力を発揮し、シナイ半島をイスラム原理主義の自治区(独立国とは言わないが)にしてしまったら、エジプトやイスラエルだけではなく、周辺の各国が両国と同様に、危険に晒されるということになろう。

こうした、エジプトのシナイ半島内部の、状況変化について、一部の専門家は、アフガニスタンにおける、アルカーイダの台頭とパターンが、極めて似ている、と指摘している。注視する必要がありそうだ。