「幾つもの危険な兆候・中東の不安」

2011年8月20日

 

 シナイ半島の近く、エジプトとイスラエルが接する、イスラエルの側の街エイラートで、テロリストの攻撃により観光客が殺害される、という事件が頻発した。その結果、イスラエル軍が周辺のエジプト人を、銃撃し死者が出た。その中には、5人の警官も含まれていた。

 事件は木曜日に起こり、概要はそれだけなのだが、事はそう簡単ではなかった。エジプト政府はイスラエル側に対し、事件の真相を究明するように要求したが、イスラエル側は約束はするものの、未だに明確な返事は返って来ない。

 この出来事に、エジプトの大衆は激怒した。カイロのイスラエル大使館前や、アレキサンドリアのイスラエル領事館は、エジプトの大衆によって囲まれ、抗議デモが行われている。

 エジプト政府はこの事態を放置できず、イスラエルに駐在するエジプト大使を、償還することを決定した。それはムバーラク政権崩壊後に起こった、エジプトとイスラルとの外交関係に、何十年ぶりかで発生した大事件なのだ。

 イスラエル側にしてみれば、エジプト政府は大衆革命後()、シナイ半島の治安維持が不可能になり、今回のような、イスラエル人観光客襲撃事件が起こったのだ、とエジプトに抗議したいのであろうが、エジプト政府側はシナイ半島の治安維持能力を失ってはいない、というところであろう。

 もし、イスラエルが主張するように、エジプト側にシナイ半島の治安を、維持する能力が無いのであれば、イスラエルはシナイ半島に隣接する、イスラエル側の安全を確保するために、何時でも国境を越えて、治安維持活動を行うようになる、危険性があるということだ。

 もちろん、そのようなイスラエル側の行動は、エジプト側には受け入れられるわけは無く、両国間で今後、緊張した状況が続くのではないか。

 シリアの国内状況も、相変わらず緊張しており、抗議デモとそれに対する弾圧が続いている。欧米諸国は一層の制裁措置を、採ることを検討しており、トルコは軍事力の行使も辞さず、という強い立場を採っている。

 イラクとクウエイトとの間では、クウエイトが進めるブビヤン島のメガ・ポート建設問題が、次第に緊張の度を高めてきている。ここでは、イラク軍は動かないとしても、テロリストが工事現場に向けて、ミサイルを撃ち込むような事態は、十分に発生する可能性がある。

 トルコはPKK(クルド労働党)による、テロ攻撃に報復するため、当初、ラマダンあけと言っていた攻撃の時期を早め、連日のようにイラク領内にある、PKK(クルド労働党)拠点を爆撃している。PKKによるテロ攻撃も、激しさを増しており、トルコ側では民間人を含め、軍人にも死者が出ている。

 こうして挙げてみると、いま中東では、トルコ、イラク、クウエイト、イスラエル、エジプト、シリア、パレスチナ、レバノンなど、多くの国々が戦争勃発の危険に、曝されているということだ。こうした雰囲気のなかでは、9月にパレスチナ自治政府が国連に提出する予定の、国家設立案をめぐるパレスチナ人によるデモは、穏健なものには収まらないのではないか。死者を含む流血の可能性が、高まっているように思えるのだが。どこかのブログに『戦争の必要性』という記事があったが、必要性からというよりも、各国の国内事情や、大衆の意向がそうした予測を、現実のものにしていくのかもしれない。