シリアが大衆蜂起によって、不安定化してから、長い時間が経過している。その中では、シリアのアサド政権が独裁的であることが問題だ、と主張されてきた。欧米との関係が改善されないことから、シリアの経済が低迷を続けていることも、今回の大衆蜂起の原因の一つであろう。
これに対し、シリア政府は外国の介入が状況を複雑化させ、解決困難にしてきている、と主張してきている。シリア政府に言わせれば、外国がサポートするスナイパーの銃弾が、大衆デモをより激しいものにしているのだ、ということのようだ。
こうしたシリアの混乱状況に対し、欧米は口をそろえてシリアの国民を、アサド体制の弾圧と殺戮から救え、と叫んでいる。しかし、実際にシリアの軍に対抗して軍を派遣できる国は、トルコしかあるまい。そこで、トルコに対するアメリカの評価が、俄然高くなってきているようだ。
なぜこうもシリア問題が欧米をして、重大視させているのであろうか、という疑問が湧いてくる。それに対する答えは、多分、オイル・ガス・ルートの確保ではないか。(アフガン戦争の原因は、中央アジアのエネルギー輸送ルートの、確保にあったと言われている。)
シリアには以前、イラクの石油がパイプ・ラインで運ばれ、外国に輸出されていた。そのパイプ・ラインを修理補強し、本格的に復活させたい、ということではないのか。
しかも、イラク・シリアのパイプ・ラインが復活すれば、同時に、イランのガス・石油のルートとして、シリアの重要性が高まるのだ。イランが最近になって、イラクとの関係を改善しているのは、イラクにシーア派政府が存在することに合わせ、イラン・イラク・シリアを結ぶ、このエネルギー・ルートに依存しようという考えが、あるからではないのか。
イランとトルコは、経済的にも政治的にも軍事的にも、ライバル関係にある中東の大国だが、現状ではイラン・イラクのエネルギー資源は、トルコを経由するしか、市場への輸送ルートは存在しない。それは、イランにとって不利であろう。
同時に、イラクが持つエネルギー資源に裏打ちされた、開発プロジェクトの受注を巡っても、消費物資の輸出をめぐっても、イランはトルコと競争関係にある。何とかイラク向けの取引で、トルコの優位に立ちたい、と考えていよう。
そうした思惑のあるイランにとっては、シリアとイラクは、強い関心の対象ということになろう。ただし、シリアの現在の国内状況は、イランのエネルギー輸送ルートとなるような状況にはない。したがって、イランは当面、シリアよりもイラクに、関心を寄せるということではないか。