大衆の蜂起を弾圧することによって、阻止しようとしたムバーラク元大統領は、治安警察に命令を出し、800人前後のデモ参加者を殺害したという容疑で、裁判にかけられることになった。
彼は今まで健康を理由に、裁判の開始を延期することに成功してきたが、結局その病気作戦も、限界に達したようだ。昨日、ムバーラク元大統領に対する裁判が始まったが、安全上の理由から、法廷はポリス・アカデミー内に特設されることとなった。
ここでとんでもない話が弁護士によって語られ、今アラブのマスコミの注目を集め始めている。それは『現在法廷に引き出されているムバーラク元大統領は偽者だ。』ということだ。
この弁護士の主張するところによれば、ムバーラク元大統領は2004年6月16日に、76歳で死亡しているというのだ。そして彼の墓はシャルム・エルシェイクに設けられ、埋葬されたというのだ。
この弁護士はムバーラク元大統領の遺体を掘り返し、DNA鑑定をするべきだと主張している。ムバーラク元大統領が本者であるか、偽者であるかは別にして、弁護士の主張にはある程度の真実も含まれていよう。そもそも、ムバーラク元大統領が癌に罹っていたことは、大分前から語られていた、エジプトのトップ・シークレットだった。
今回も弁護士はそのことを主張している。弁護士はシオニズムとアメリカの工作によって、ムバーラク元大統領は死亡後、シャルム・エルシェイクで秘密裏に埋葬され、替え玉のムバーラクが誕生したというのだ。
確かに、2004年の段階でエジプトのムバーラク大統領が死亡していたら、アメリカやイスラエルにとって、中東戦略上、大打撃であったろう。2004年といえば、アメリカがイラクに軍事侵攻して、1年が経過しただけの時期であり、中東世界全体が極めて不安定な状態にあったし、イラクのサダム・フセイン大統領もまだ生きていた。
弁護士氏はそもそもこの替え玉説が出てきた裏には、エジプトの半官半民紙であるアルアハラーム紙の、6月15日付ニュースがあるとしている。アルアハラーム紙はこの日、アメリカの元CIA長官だったジョージ・テネット氏のエジプト訪問を伝えている。
元CIA長官だったジョージ・テネット氏は、エジプトで元情報長官、現在副大統領のオマル・スレイマーン氏に会ったと伝えている。この一日後、ムバーラク元大統領の死亡説が流れたというのだ。その真偽のほどは、今のところ私には判らない。