最近、ガスや石油のパイプラインに対する、テロが増えていることを、既に何度かお伝えしてきた。考えようによっては、これほど狙いやすく、かつ、大きなダメージを、与えることのできる、標的はあるまい。何百キロ何千キロにも及ぶパイプラインは、その防御に大変な苦労がいるということだ。
しかし、それは攻撃された側にしてみれば、死活的なダメージとなるため、報復は相当にきついものとなろう。また市民生活にも直接的な、影響を与えるだけに、あまり得策ではない、という判断もあったろう。
そうした判断が、これまでテロリスト側をして、パイプラインに対する攻撃を、控えさせてきていたのかもしれない。
しかし、そうした判断による抑制が効かなくなり、パイプラインに対するテロが、増えたということは、パイプライン攻撃を仕掛ける側に、余裕がなくなってきている、ということかもしれない。
例えば、8月11日に起こった、トルコ・イランを繋ぐ、ガス・パイプラインに対するテロは、PKK(クルド労働党)が犯行声明を出した。つまり、われわれがやった、と白状したのだ。
そのことは、トルコのクルド人にとっても、歓迎できないことであろう。それにもかかわらずテロを実行し、犯行声明を出したのには、PKK(クルド労働党)や、この組織と連携するPJAK(反イランクルド組織)が、いま追い込まれているという、状況にあるからであろう。
最近になって、イラン政府は革命防衛隊を大量投入し、イラン北西部のPJAK基地などに対し、猛攻撃を加え、相当数のPJAKメンバーを、殺害している。その報復に、PKKが今回のトルコとイランを繋ぐ、パイプライン爆破テロを、実施したのであろう。
犯行現場はトルコの南東部、アウル地方のドウベヤズだったが、このテロにより、イランからトルコへのガスの輸送は、1週間に渡って停止した。
こうなると、トルコとイランは、協力してクルド・ゲリラ対策を、行う可能性が高まろう。トルコとイランはクルド・ゲリラに関する、情報を交換し合い、同時に、挟み撃ちをかけるかもしれない。
このような、トルコとイランによる共同の、クルド・ゲリラ対策が採られた場合、イラクのクルド自治政府は、対応が困難になろう。PKKやPJAK に対し、いままでのように、支援はしないまでも、領土内での行動の自由を黙認する、ということは許されなくなる、可能性があろう。
イラクのマリキー政権が、イランとの関係を強化する、方向にあるなかでは、クルド自治政府のクルド・ゲリラに対する、対応次第によっては、イラク中央政府との関係を、悪化させる危険性も出てこよう。
今回のパイプラインに対するテロは、PKK(クルド労働党)内部の、強硬派が実施した犯行であろうが、結果的には、PKK(クルド労働党)の立場を、弱体化させることになるのではないか。それは、イランに対してテロ攻撃を加えている、PJAKにとっても同じであろう。