ブログにインフォーメーション・クリアリング・ハウスというのがある。ここには、世界中から発信される記事や、論文が集められ、紹介されている。従って、われわれのような仕事をしている人間にとっては、国際情勢を醒めた目で見る上で、好材料を与えてくれる、有益な情報ソースのひとつだ。
そのインフォーメーション・クリアリング・ハウス7月23日付に、トーマス・マウンテン氏の論文が掲載されていた。内容が非常に参考になったので、ここにその要旨だけを、ご紹介することにした。論文のタイトルは『イラクより酷いリビア戦争』というものだ。
氏はこの中で、人権委員会や人道組織の報告を元に、カダフィ派がリビア国民を大虐殺しているというのは、嘘だと書いている。カダフィ派がヘリコプターで市民を虐殺したことも、ジェット戦闘機が空爆したことも、確認されていないというのだ。
人権委員会の報告では、数千人の市民が殺害されたと、西側マスコミや政府から報告されたが、それは嘘で、ベンガジで死亡したのは、たった110人だというのだ。しかも、そのなかには、ベンガジの反カダフィ派の人たちだけでは無く、カダフィ派の兵士も、含まれているということだ。
他方、リビアの赤十字(赤新月社)の発表によれば、NATO軍の空爆で死亡した市民の数は、1100人に達しているということだ。そのうちの400人は婦女子、これに加え、6000人の市民が負傷したということだ。
彼は大半のリビア国民が、カダフィ大佐を支持しており、大規模な支持デモも、行われていると主張している。その理由は、リビア国民がアフリカ大陸の国々の中で、最も恵まれているからだというのだ。
リビア国民は無償の医療サービスが受けられ、無償の教育が受けられ、ほとんどの家族は自家用車を持っており、自宅を所有している、ということだ。そのことが事実であることを、私も見て確認している。
それでは、そのようなリビアを、何故NATO諸国が、攻撃し始めたのかについて、トーマス・マウンテン氏はリビアがアフリカに、新銀行システムを構築しようとしたからだというのだ。
この新型のアフリカの銀行(資金のほとんどはリビアの出資)が出来上がれば、アフリカ各国は無利子か、あるいは非常に低い金利で、金が借りられることになるし、貿易も決済にドルや西側の通貨が、絡まなくなると言うのだ。そのことが、NATO諸国なかでもアメリカの、逆鱗に触れたというのだ。もちろん、リビアの石油資源も同様に、NATOによるリビア攻撃の理由であろう。
確か、イラクが攻撃を受ける前にも、同様のことがあった。それは、イラクが石油取引をドルではなく、全面的にユーロに変える、ということではなかったかと思われる。そのことが、アメリカを激怒させ、イラク攻撃が起こったのだということだ。当時、私は『イラク戦争は石油戦争であると同時に、通貨戦争だ。』と東京財団が開催した講演会で、語った記憶がある。
しかし、こうしたアメリカや西側の努力も、中国に世界の資金が、大量に集まったことと、ロシアの豊富な資源、そしてBRICSと呼ばれる国々の、経済発展の前に、失敗していくのではなかろうか。
中国とロシアは相互の通貨、元とルーブルでの貿易決済を、既に合意している。今後は、東南アジアの諸国と中国との間でも、元を基軸通貨とする貿易が、その割合を拡大させていくのではないか、と思われる。『ローマは永遠ではなかった。』ということを考え起こす時期が、来ているのではないか。