エジプトの軍最高評議会、つまり実質的なエジプトの最高決議機関が、最近になって国会議員選挙を、9月から11月ごろに、遅延することを発表している。しかも、11月実施も明確なものにはなっていない。
これには幾つかの理由が想像できる。第一に大衆の不満が、未だに大きいということだ。第二革命と言ってもいいほどの、国民集会が最近になって、タハリール(解放)広場で繰り返されている。
彼らはムバーラク政権時代の閣僚を非難し、裁判に持ち込むことに成功したが、その後も抗議集会が続き、遂には暴力を振るった警察官600人以上を、首にさせることに成功している。この大衆の要求に、軍最高評議会は応えざるを得なかった、ということであろう。
続いて、大衆の要求はムスリム同胞段に有利な、9月選挙開催を遅延するよう、要求していた。組織がしっかり出来ているムスリム同報団にとっては、選挙実施が早ければ早いほど、有利だということだ。
大衆側はそれで選挙の日程遅延を、要求していたわけだし、その前の段階では、憲法改正が先だとも言っていたわけだ。述べるまでもなく、憲法改正が先だということには、時間稼ぎもあった。もちろん、現在のエジプト憲法は、社会主義体制下での、実質一党独裁型の憲法であり、多党制にするには、改正が必要であることは、確かなのだが。
もうひとつ見逃すわけには行かないのが、現状で9月に選挙を実施した場合の、ムスリム同胞団の独走的勝利であろう。そうなれば、軍最高評議会も一目置かざるを得なくなり、イスラム法も強化される危険がある。
そこで大衆の要求ということを口実に、選挙の実施日を遅延させ、ムスリム同胞団の独走を抑えるということを、軍最高評議会が考えたとしても、不思議はあるまい。
もうひとつの理由として考えられるのは、社会や政治変革が大衆の希望通りには、進んでいないことから、次第に軍部に対する批判が、出始めてきていることだ。現在の軍最高評議会のメンバーは、述べるまでもなくムバーラク前大統領の指名によって、就任した軍幹部だからだ。
そこで大衆の軍に対する、批判をかわす意味もあり、選挙の実施日程を、遅延させたのではないか。大衆は最終的に、軍が治安を維持出来る状態を残しておく必要があろう。
そうしなければ、結果的に大衆による方向の定まらない政治運動(?)が、国家を混乱に引きずり込んで、自殺的な状況を生み出すだけになるからだ。