第四次中東戦争後に、エジプトに返還されたシナイ半島は、イスラエルが占領している時代から、ガスや石油があることが発見され、開発されてきていた。
イスラエルは第四次中東戦争後、アメリカのカーター元大統領の仲介で、1979年に成立した、エジプトとのキャンプ・デービッド和平合意の中で、シナイ半島の返還を決めた。
それは、エジプトというアラブ唯一の軍事大国との、平和な関係と交換するに値するものであったろう。以来、イスラエルとエジプトとの間には、軍事的衝突は起こっていない。
この合意には、もう一つの条件が付いていた。それはキャンプ・デービッド和平が合意された後も、エジプトはシナイ半島で生産されるガスを、イスラエルに対し安価で、供給するというものだった。
その合意は、サダト大統領亡き後も、後継のムバーラク大統領時代になっても、継続されてきていた。そのことがどれだけイスラエルにとって、経済的にメリットがあったのかは、測り知れまい。イスラエルを囲む他の国々は、みな敵対国であり、イスラエルに石油やガスの供給を正面切って行う国は、存在しなかったからだ。
ところが、ムバーラク体制が大衆蜂起によって打倒された後、このシナイ半島にある、イスラエルとヨルダン向けに敷設されたガス・パイプラインが、4度にも渡って爆発しているのだ。
当初は単純な事故だろう、と考えられていたのだが、実はテロリストによる犯行だったことが、最近明らかにされてきている。このパイプライン爆破テロの前には『なぜエジプトはイスラエルに対し、ガスを安価で供給する必要があるのか?』という非難の声が上がってもいた。
パイプライン爆破テロ犯は、4~5人で覆面をして、パイプラインの中継所を襲い、スタッフを立ち退かせてから、爆弾を設置いて爆破している、ということだ。つまり、明らかにイスラエル向けのガス輸送を、阻止することが目的の、行動であろうことが想定される。
ここにきて、ムバーラク体制の打倒が、イスラエルとの間に交わされた、キャンプ・デービッド合意破棄には至らないまでも、度重なるガス・パイプライン爆破テロは、その一部を破棄する行為、ということになろう。
イスラエルは今のところ、このテロに対してコメントしていないが、エジプト国民の中に蠢いている、反イスラエル感情を、まざまざと見せつけられた、感じであろう。
この手のテロが繰り返し起こることは、両国関係に暗い影を落とすことに、なるのではないか。もし、ガス・パイプラインテロ犯が逮捕されるようなことになれば、エジプト国民の間から、彼らテロリストを英雄として称賛する動きが、起こるのではないか。それは、エジプト現政府にとって、厄介なことであろう。