「そろそろ始まったアラブの春の中間決算」

2011年7月 9日

 

 アラブの春と欧米が命名した、アラブの大衆蜂起について、そろそろ中間決算が始まったようだ。

 このアラブの春と呼ばれる大衆蜂起が、結果的にアラブの大衆に、何をもたらしたのかということだ。そして、このアラブの大激変が、周囲の国々にどのような結果を、もたらしているのかということだ。

 エジプトでは7月8日の金曜日、大衆蜂起が始まった主舞台タハリール広場に、数十万人の大衆が集まり、遅々として進まない革命の成果について、抗議したようだ。しかし、それは何ももたらさないのではないか。

 革命が達成された後、大衆は自分の言いたいことを、自由に言えるようになり、警察に対しても、恐れなくなったことは事実だが、革命によって大衆にもたらされたものは、失業の増加、物価高、相変わらずの汚職、治安の悪化などではなかったのか。

 そして、自由選挙が実施される前に、大衆の多くが望んだ憲法改正は、後回しにされ、選挙が9月に実施される、可能性が高いようだ。そうなれば、準備が出来ており組織力のある、ムスリム同報団が勝利するのは、誰にも予測できよう。エジプトの革命を推進した市民の努力は、とんびにアブラゲをさらわれるように、ムスリム同報団に持ち去られるということだ。

 そうしたことも含めて、金曜日に再度、大規模集会が行われたのであろうが、その結果として、世俗派の大衆はムスリム同報団と、対峙する力を手にすることが、出来るのだろうか。

 もうひとつの懸念は、アラブ世界の多くの国が、アラブの春により、不安定化したことだ。エジプトばかりではなく、ヨルダンもシリアも、大混乱の坩堝のなかにある。これではパレスチナ問題に、関心を払ってはいられまい。

 イスラエル政府がヨルダン川西岸地区に、新たな入植地を設けることを、正式に許可したが、そのことは、パレスチナ問題の解決を、益々困難なものにする、ということであろう。

 しかし、元々この問題を解決する意志のない(まじめに国家を設立する意志)マハムード・アッバース議長は、紙に書いたボタ餅のパレスチナ国家承認を、国連に認めさせたい、と意気込んでいる。それが何も変えないことを、彼はよく知っているはずなのだが。この考えに反対のパレスチナ自治政府幹部は、マハムード・アッバース議長が何らかの成果を、パレスチナ史に残したいだけのことだ、と嗤っている。その通りであろう。

 つまり、アラブの春はアラブ各国に混乱をもたらし、パレスチナ問題には誰も真剣に、取り組めない状態が生まれ、イスラエルにとっては、極めて好都合な状態になり、安全度が高まった、ということだろう。イランのプレス・テレビは『アメリカにとって最大の関心事は、イスラエルの安全だが、アラブの春により、アラブの反イスラエルの動きは、大幅に弱体化した。』と報じている。その通りであろう。