時を同じくして、イスラエルとサウジアラビアが、イランの動向に対し、警戒感を示した。サウジアラビアの場合は、イランとの対話を呼びかける形になっており、敵対姿勢は示していないものの、その内心には、十分にイランに対する警戒心が、見え隠れしている。
述べるまでも無い、最近になってサウジアラビアは、イランによるバハレーンへの関与を、強く警戒しているからだ。シーア派が多数を占めるバハレーンにあって、スンニー派の王制は社会的に、極めて脆弱な状況にあるからだ。
同時に、サウジアラビアは自国に対する、イランの関与についても、相当の警戒感を抱いているのであろう。述べるまでも無く、サウジアラビア最大の産油地帯アルカティーフは、シーア派住民が多数を占める地域だからだ。そこでも今年に入り、サウジアラビア政府対する、シーア派国民による抗議デモが、何度となく繰り返されてきている。
イスラエルはもっと露骨な形で、イランに対する警戒感をあらわにしている。イスラエルの情報機関の調査と分析によれば、イランはエジプトで9月に実施が予定されている、国会議員選挙に向けて、種々の働きかけを計画し、既にその実行段階に、入っているということのようだ。
エジプトの選挙で、半数近くの議席数を獲得するであろう、と予測されているムスリム同胞団に対して、イランが友好の呼びかけをしていることも、気がかりであろう。
イランはまた、エジプトのイスラム学の最高権威である、アズハル大学の学長を、イランに招待してもいる。それにシェイク・ル・アズハル(アズハル大学学長)がどう反応するか、関心のもたれるところだ。
もし、シェイク・ル・アズハルが招待を受け、イランを訪問し、何らかの合意に達するようなことになれば、流れはイランにとって、極めて有利なものとなろう。シェイク・ル・アズハルはスンニー派イスラム世界のなかで・最も権威のあるイスラム学者の一人であるからだ。
イスラエルにしてみれば、中東の中にあって、人口的にも軍事的にも、大国であるエジプトとイランが、手を結ぶようなことになれば、自国が極めて危険な状態に、なったと判断するのが、当然のことであろう。
イランとエジプトの関係が、改善するということは、イスラム世界全体で、反イスラエル色が一層強くなる、ということであり、パレスチナ問題でも、マハムード・アッバース議長の主導する、パレスチナ自治政府よりも、イスラエルを国家として、未だに承認することを拒否している、ハマースに対する支持が、強まる危険性があろう。
イスラエルの情報機関はエジプトばかりではなく、イランはイラクやイエメン、バハレーン、スーダンにまで、手を伸ばし始めているということだ。つまりハメネイ師がつい最近語ったように、イランは現在イラン革命を、周辺諸国に拡大する方向に、動き出しているということであろう。
しかし、以前にも書いた通り、イランも中東の一国であり、決して『アラブの春』と呼ばれる政治変革の大波から、何の影響も受けないということはあるまい。今のイランの外国に対する、イスラム革命の拡大の動きは、実は内部に抱える問題を糊塗すための、ものである可能性が高かろう。ハメネイ氏は現在、中東世界で起こっている変革の嵐が、コーランの中で予言されている、と語り始めている。
コーランは不明確な表現部分も多いことから、どうにでも解釈できる部分もある。そのことをもって、まさに今イスラムの時代、イスラム革命の時代だと語ることは、少し現実から離れているのではないか。イランではどうか知らないが、神がかりな表現を嫌う日本人には、受け入れられない発言ではないか。